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エメラルドの鎮魂歌
第1章 罪と嘘のプレリュード
「兄様、聞いて!僕、学内の馬術大会で一位になったよ!」
和葉がピアノの側に駆け寄り報告した。
「すごいじゃない!さすが和葉だね。おめでとう」
瑞葉はエメラルドの瞳を輝かせ、和葉を抱き寄せて祝福する。
瑞葉の紅玉色の唇が、そっと和葉の頬に触れる。
和葉が眩し気に瑞葉を見上げた。
「ねえ、兄様。バルコニーでお茶を飲まない?
今日はとても良い天気だよ。
ここのバルコニーから、庭の野薔薇が良く見えるよ。二、三日前に咲き出して、とても綺麗なんだ」
殆ど外に出ない瑞葉を、和葉は積極的に連れ出そうとする。
「…でも…」
瑞葉は八雲を振り返る。
八雲は瑞葉の健康に、神経質なまでに気を遣っている。
バルコニーに出るのも、八雲が良いと判断しないと出ることはできなかった。

八雲は安心させるように頷いた。
「今日は陽射しも温かですし、外の空気をお吸いになるのも良いでしょう。
…私がお連れいたします。…さあ、瑞葉様…」
差し伸べた大きな美しい手を、瑞葉の透き通るように白く小さな手が握りしめる。
ふわりと全く重さを感じさせることなく、八雲は瑞葉を抱き上げた。
…毎日、何回…いや、何十回も繰り返されている行為のはずなのに、八雲はこの上なく優しく甘い眼差しで瑞葉を見つめていた。
瑞葉もまた、そのほっそりとした腕を男の首筋に巻きつけ、蕩けそうな瞳で見上げているのだ。

八雲は軽々と瑞葉を抱き上げ、バルコニーに向かった。
「今、メイドにお茶を用意させましょう。
スコーンと、サンドイッチも…。お外なら少しは食欲が湧かれるのではないでしょうか。
今日は瑞葉様のお好きなスフレも焼いてもらいました。
…ただし召し上がるのは、お薬を飲まれてから…ですよ」
男の瑠璃色の瞳は、瑞葉しか映さない。
「…八雲の意地悪…」
頬を膨らませながらも、嬉しそうに和葉を振り返る。
「…ねえ?そう思わない?和葉」

男の胸に抱かれきらきらと瞳を輝かせる兄は、どきどきするほどに美しかった。
「…う、うん…」
和葉はぎこちなく笑い、気を取り直したように二人の後を追った。

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