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エメラルドの鎮魂歌
第11章 エメラルドの鎮魂歌 〜孤独の魂〜
八雲が客間に戻ると、青山は窓辺に佇み庭園の景色を見渡していた。
「…随分、片付けられている印象を受けるな…」
独り言のように呟く。
八雲はテーブルにお茶の準備をしながら、淡々と答える。
「…漸く次の管理人が見つかりました。
申し送りも全て終え、あとは来月に鍵の引き渡しをするのみです」
青山が振り返り、眉を顰める。
「ここから出てゆく気か?」
「旦那様に辞表を提出いたしました。
…薫子様は床に伏せておられて、かなりお力を落とされております。
今や旦那様が全ての権限をお持ちになっています。
…瑞葉様の出生の秘密は、もちろんご存知ありません。
さすがに千賀子様も、これ以上瑞葉様を後継者に推すことはなさらないでしょう。
私の退職も旦那様に口添えして下さったようです」
長椅子に座り、青山は洗練した仕草で長い脚を組む。
「瑞葉くんは私と一緒にフランスに渡ることになったよ。…彼には人生を見つめ直す時間が必要だろうからね」
八雲は驚きはしなかった。
美しい所作で青山の為に薫り高いダージリンを淹れる。
「千賀子様に先日伺いました。
…青山様には心より感謝申し上げます。
どうか、瑞葉様のことをよろしくお願いいたします」
青山は腕を組んだまま尋ねた。
「…冷たい男だな。君は瑞葉くんがどうしているか気にならないのか?」
その言葉に胸を突かれ、八雲の端麗な美貌が歪む。
「…瑞葉様のことを考えない日は一日もございません。
けれど、私には瑞葉様を案じる資格はないと自分を戒めております」
青山の人好きのする瞳に、冷たい色が宿る。
「…そうか…。
では、藍が瑞葉くんを抱いたことも君に話す必要はないかな」
八雲の手が震え、ティーカップが倒れる。
純白のテーブルクロスに朱色の染みが広がる。
「…私も加えてもらったよ。彼は実に妖艶で淫靡だな。
…君が狂う気持ちが良く分かった」
「青山様…!」
思わず語気を荒げる八雲に、軽く笑って見せる。
「気にしないのだろう?彼がどんな風に私たちの前で乱れたか…知りたくはないのだろう?」
「おやめください!…それ以上は仰いますな!」
凄まじい眼差しで睨みつけられ、漸く口調を柔らげる。
「…彼は…瑞葉くんは、達したあと君の名を呼んだよ…。
切なげに哀しげに…そして愛おしげに…ね」
深い瑠璃色の瞳を見開き、貌を背けた。
…その美しい背中は、微かに震えていた。
「…随分、片付けられている印象を受けるな…」
独り言のように呟く。
八雲はテーブルにお茶の準備をしながら、淡々と答える。
「…漸く次の管理人が見つかりました。
申し送りも全て終え、あとは来月に鍵の引き渡しをするのみです」
青山が振り返り、眉を顰める。
「ここから出てゆく気か?」
「旦那様に辞表を提出いたしました。
…薫子様は床に伏せておられて、かなりお力を落とされております。
今や旦那様が全ての権限をお持ちになっています。
…瑞葉様の出生の秘密は、もちろんご存知ありません。
さすがに千賀子様も、これ以上瑞葉様を後継者に推すことはなさらないでしょう。
私の退職も旦那様に口添えして下さったようです」
長椅子に座り、青山は洗練した仕草で長い脚を組む。
「瑞葉くんは私と一緒にフランスに渡ることになったよ。…彼には人生を見つめ直す時間が必要だろうからね」
八雲は驚きはしなかった。
美しい所作で青山の為に薫り高いダージリンを淹れる。
「千賀子様に先日伺いました。
…青山様には心より感謝申し上げます。
どうか、瑞葉様のことをよろしくお願いいたします」
青山は腕を組んだまま尋ねた。
「…冷たい男だな。君は瑞葉くんがどうしているか気にならないのか?」
その言葉に胸を突かれ、八雲の端麗な美貌が歪む。
「…瑞葉様のことを考えない日は一日もございません。
けれど、私には瑞葉様を案じる資格はないと自分を戒めております」
青山の人好きのする瞳に、冷たい色が宿る。
「…そうか…。
では、藍が瑞葉くんを抱いたことも君に話す必要はないかな」
八雲の手が震え、ティーカップが倒れる。
純白のテーブルクロスに朱色の染みが広がる。
「…私も加えてもらったよ。彼は実に妖艶で淫靡だな。
…君が狂う気持ちが良く分かった」
「青山様…!」
思わず語気を荒げる八雲に、軽く笑って見せる。
「気にしないのだろう?彼がどんな風に私たちの前で乱れたか…知りたくはないのだろう?」
「おやめください!…それ以上は仰いますな!」
凄まじい眼差しで睨みつけられ、漸く口調を柔らげる。
「…彼は…瑞葉くんは、達したあと君の名を呼んだよ…。
切なげに哀しげに…そして愛おしげに…ね」
深い瑠璃色の瞳を見開き、貌を背けた。
…その美しい背中は、微かに震えていた。