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エメラルドの鎮魂歌
第12章 エメラルドの鎮魂歌 〜瑠璃色に睡る〜
…神秘的な蒼ざめた月の光が、紗幕の中を幻想的に照らし出していた。
八雲は瑞葉の美しい寝顔をじっと見つめる。
伏せられた長い琥珀色の睫毛が、ミルクのように白く滑らかな肌に影を落としている。
美しく繊細な鼻筋、そして薔薇色の露を含んだような唇…。
蜂蜜色の艶やかな髪が頬に掛かり、瑞葉を稚い子どものように見せていた。
…先ほどまで、あんなにも妖艶な姿を惜しげもなく晒していたのに、まるで天使のような無垢さだ…。
愛おしさが温かな泉のように溢れ出す。
八雲は、瑞葉を起こさぬようにそっとその唇にキスを落とす。
…柔らかな愛おしい唇…。
まるで天国の果実のように甘く切なく八雲を誘う…。
…名残は尽きぬが、もういかなくてはならない。
八雲は静かに身を起こし、そっと瑞葉に背を向けた。
一瞬足を止め…首を振り、思い定めたかのように歩き出す。
…その背中に、声が掛かる。
「…八雲、こんな深夜にどこに行くの?」
ゆっくりと振り返り、穏やかに微笑う。
「いいえ、どこにもまいりませんよ」
寝台から起き上がり、不安げに尋ねる。
「本当に?」
八雲は優しく頷く。
「はい…」
瑞葉の美しいエメラルドの瞳が安堵したように輝く。
「良かった…。
…ねえ、乾杯しよう」
そう弾むように告げると瑞葉はさらりと紗幕を上げ、部屋の隅のキャビネットまで進み、一本のワインボトルを取り出した。
…古い年代ものの赤ワインだった。
振り返り、無邪気に笑う。
「このワイン、僕が生まれた年のワインなんだって。
和葉が海軍に入る前に僕にくれたんだ。
戦争が終わったら三人で飲もうと思っていたんだけれど…もうそれも出来ないね…。
…二人で飲もう…。天国の和葉の分も…」
そう、やや寂しげに告げると、八雲に背を向け、二つのグラスにワインを注いだ。
瑞葉が八雲の元に戻り、ワイングラスを差し出す。
「乾杯しよう、八雲。…これからの僕たちに…」
…美しいエメラルドの瞳に、八雲が映り込む。
誰よりも愛した…何よりも愛した…美しいエメラルド…。
八雲はグラスを受け取り、瑞葉のグラスとそっと触れ合わせる。
クリスタルの透明な美しい音色が鳴る。
真紅のワインを一気に飲み干す。
瑞葉はそれを見届けると嬉しそうに杯を仰いだ。
…くらりとした酩酊感が、八雲をゆっくりと支配する。
「…瑞葉様。何をお入れになりましたか…?」
八雲は瑞葉の美しい寝顔をじっと見つめる。
伏せられた長い琥珀色の睫毛が、ミルクのように白く滑らかな肌に影を落としている。
美しく繊細な鼻筋、そして薔薇色の露を含んだような唇…。
蜂蜜色の艶やかな髪が頬に掛かり、瑞葉を稚い子どものように見せていた。
…先ほどまで、あんなにも妖艶な姿を惜しげもなく晒していたのに、まるで天使のような無垢さだ…。
愛おしさが温かな泉のように溢れ出す。
八雲は、瑞葉を起こさぬようにそっとその唇にキスを落とす。
…柔らかな愛おしい唇…。
まるで天国の果実のように甘く切なく八雲を誘う…。
…名残は尽きぬが、もういかなくてはならない。
八雲は静かに身を起こし、そっと瑞葉に背を向けた。
一瞬足を止め…首を振り、思い定めたかのように歩き出す。
…その背中に、声が掛かる。
「…八雲、こんな深夜にどこに行くの?」
ゆっくりと振り返り、穏やかに微笑う。
「いいえ、どこにもまいりませんよ」
寝台から起き上がり、不安げに尋ねる。
「本当に?」
八雲は優しく頷く。
「はい…」
瑞葉の美しいエメラルドの瞳が安堵したように輝く。
「良かった…。
…ねえ、乾杯しよう」
そう弾むように告げると瑞葉はさらりと紗幕を上げ、部屋の隅のキャビネットまで進み、一本のワインボトルを取り出した。
…古い年代ものの赤ワインだった。
振り返り、無邪気に笑う。
「このワイン、僕が生まれた年のワインなんだって。
和葉が海軍に入る前に僕にくれたんだ。
戦争が終わったら三人で飲もうと思っていたんだけれど…もうそれも出来ないね…。
…二人で飲もう…。天国の和葉の分も…」
そう、やや寂しげに告げると、八雲に背を向け、二つのグラスにワインを注いだ。
瑞葉が八雲の元に戻り、ワイングラスを差し出す。
「乾杯しよう、八雲。…これからの僕たちに…」
…美しいエメラルドの瞳に、八雲が映り込む。
誰よりも愛した…何よりも愛した…美しいエメラルド…。
八雲はグラスを受け取り、瑞葉のグラスとそっと触れ合わせる。
クリスタルの透明な美しい音色が鳴る。
真紅のワインを一気に飲み干す。
瑞葉はそれを見届けると嬉しそうに杯を仰いだ。
…くらりとした酩酊感が、八雲をゆっくりと支配する。
「…瑞葉様。何をお入れになりましたか…?」