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エメラルドの鎮魂歌
第12章 エメラルドの鎮魂歌 〜瑠璃色に睡る〜
「史郎さん!見て!屋敷が…屋敷が燃えている!」
門扉の前に付けた車から飛び出した藍が、炎に包まれた屋敷を見上げて叫んだ。
青山は息を飲む。
「…これは…!」

暁の…しかしまだ薄墨色が広がる空に赤々と燃え上がる炎と黒煙が、今まさに屋敷全体を飲み込もうとしていたのだ。

門扉に手を掛け、中に入ろうとする藍の腕を強く掴む。
「待て、藍!どこに行く気だ⁈」
「離せ!瑞葉を…瑞葉を助けなくちゃ!」
語気を強める藍の細身の身体を背中から抱き留める。
「あの炎を見ろ!中に入れば命はないぞ!」
「嫌だ!離せ!瑞葉が!瑞葉が中に!」
暴れる藍を強い力で抱き込み、運転手に指示を飛ばす。
「急いで村の消防団へ連絡を」
「は、はいっ!」
運転手が慌てて車を急発進させ、村への道を走り出した。

「行くな、藍!瑞葉くんと八雲はもう逃げているかもしれない」
「離せってば!逃げ遅れてたらどうするんだよ!」
狂ったようにもがく藍を頑強な胸に抱き込んで、懇願するように掻き口説く。
「行かないでくれ!藍。
お前に何かあったら…私は生きてゆけない!」
藍の動きがびくりと止まる。
代わりに、引き絞るような悲痛な叫びを上げる。
「瑞葉!瑞葉!」
嗚咽を漏らす藍の頭を胸に押し込める。
煉瓦で構築された高い塔がばらばらと激しい音を立てて崩れていく。
火花が大きく散り、更に黒煙と鮮やかな炎が上がった。
「見るな…見るんじゃない!」
「…瑞葉…!…どうして…こんな…」
青山は、震える藍の身体を抱きすくめる。

…大きな紅蓮の炎はやがて屋敷のすべてを飲み込み、熱風を巻き散らしながら、赤々と燃え盛り続けたのだった。
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