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エメラルドの鎮魂歌
第1章 罪と嘘のプレリュード
篠宮伯爵夫人 千賀子の寝室から、その弱々しい産声が上がったのは、千賀子が産気づいてから丸三日も経っての冬の早朝のことだった。

千賀子はまだうら若く初産で、取り分け少女めいた華奢な身体付きをしていたので、難産は予想されていた。
しかし、これほどまでにお産が長引くとは主治医すらも予想していなかったことで、次の間で妻の出産を今か今かと待ちあぐねていた夫 篠宮伯爵…征一郎は安堵のため息を漏らした。
「…やれやれ…。やっと産まれたようだ…」
その貴族的で端正だが、気弱さと神経質さが垣間見られる当主に、八雲の叔父の執事は恭しく祝いの言葉を述べた。
「おめでとうございます。旦那様。ご無事にご出産なさいまして、何よりでございます」
「うむ。…しかし、どちらかな。…男か…女か…」
征一郎が出産を終えたばかりの妻の身体より、産まれた子どもの性別を気にかける冷淡さを、叔父の傍らに控える八雲は驚かなかった。

篠宮伯爵家に従者として仕えるようになって丸一年が過ぎたが、貴族にとって世継ぎ問題が何より重要なことは、教えられなくても理解してきたからだ。
世継ぎが…ことに男子が産まれないとその家は断絶することになる。

千賀子は五年前に篠宮家に嫁いできたが、全く妊娠の兆候がなかった。
「三年子なきは去れ」という非情な言葉がある通り、千賀子は肩身狭く日々を暮らしていたのだ。

この家で絶大な権力を握る征一郎の母親 薫子は、露骨にそれを表した。
「征一郎さん、貴方は篠宮家の当主として為すべきことを為さないとなりません。
他の花をお探しなさい。
いつまでも実を実らせない花を愛でて何になりますか」
還暦を迎えたとはとても思えない練り絹のように美しい肌には皺ひとつない。
その彫りの深い冷たく整った貌で言い放つ一言に、征一郎はただ黙り込み、千賀子は耐えきれず席を立った。

人気のない裏庭で声を押し殺し涙を流す千賀子を、八雲は何度も目撃した。
この大層美しいが、実家は新興の金融業を営み莫大な持参金以外は取り柄がないと薫子に見下されている夫人は、いつも日陰に咲く花のように弱々しく頼りなげであった。

通りかかった八雲と目が合うと
「…こんなところで泣いていたら、またお義母様に叱られるわね」
と泣き笑いを見せた。

八雲は淡々と
「私は何も見てはおりません。奥様」
そう告げ、一礼して去るのが常であった。




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