この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エメラルドの鎮魂歌
第2章 その薔薇の秘密は誰も知らない
夜会は今が盛りのようであった。
東翼から遥か離れた西翼の瑞葉の部屋にも、その華やかな喧騒は伝わってきた。
瑞葉は白い夜着の上に真珠色のガウンを羽織り、ピアノを奏でていた。
ドビュッシーの月の光…。
こんな夜には相応しいような気がしたのだ。
しかし、さっきから鍵盤を滑らす指も気もそぞろであった。
…原因は…分かっている。
八雲だ…。
瑞葉は切なくため息を吐く。
先週のあの夜の甘く切なく…罪の色濃く感じるあのできごと…。
あのできごとが、瑞葉に甘いため息を吐かせるのだ。
初めての自慰を八雲に手伝ってもらった。
初めて唇にキスしてもらった。
初めて愛していると言ってもらった。
…そう、初めて愛していると…。
瑞葉の白い彫像のように端麗な貌に喜びと恥じらいが綯い交ぜになった表情が浮かぶ。
…幸せだった…。
生まれた時からずっと側にいて、片時も離れずに自分を守り仕えてくれている美しい執事…八雲が自分と同じ気持ちでいてくれた…。
その上、恥ずかしい自分の欲情を鎮めてくれた。
乱れる自分を見つめる深く蒼い瑠璃色の瞳には、同じ熱情が宿っていた。
八雲が自分を愛してくれていて、欲情をも催してくれている…。
消え入りそうな羞恥の中で、瑞葉は幸福を噛み締めていた。
湯の中で精を爆ぜさせ、狂おしく甘い口づけを繰り返した。
身体の弱い瑞葉はそのまま意識を手放し、気づくと寝台の上に横たえられていた。
夜着をきちんと着せられ、傍らには八雲が跪き瑞葉の手を握ってくれていた。
「…愛しています。瑞葉様。貴方は私の命です」
恭しく愛の言葉を囁くと、美しく洗練された騎士のように瑞葉の手を取り優しく口づけた。
…夢のように幸せだ…。
瑞葉はその光景を思い出し、微笑んだ。
先ほど、八雲は業務の合間に瑞葉の様子を見に来てくれた。
「…お変わりありませんか?瑞葉様。
また、お貌を覗きにまいります」
そう囁くと、瑞葉の唇にそっとキスを落とした。
…八雲からは夜会の薫り…上質なシャンパンや紳士達が嗜む葉巻、貴婦人達の高価な香水の香りがふわりと漂った。
…自分の見知らぬ世界の香りだ…。
「…うん。待ってる…」
瑞葉は八雲の手を握りしめ、それが離される瞬間…切なげに瞬いた。
「…愛しています。瑞葉様…」
愛の言葉を繰り返し、優しい微笑みを残しながら八雲は瑞葉の部屋を後にした。
東翼から遥か離れた西翼の瑞葉の部屋にも、その華やかな喧騒は伝わってきた。
瑞葉は白い夜着の上に真珠色のガウンを羽織り、ピアノを奏でていた。
ドビュッシーの月の光…。
こんな夜には相応しいような気がしたのだ。
しかし、さっきから鍵盤を滑らす指も気もそぞろであった。
…原因は…分かっている。
八雲だ…。
瑞葉は切なくため息を吐く。
先週のあの夜の甘く切なく…罪の色濃く感じるあのできごと…。
あのできごとが、瑞葉に甘いため息を吐かせるのだ。
初めての自慰を八雲に手伝ってもらった。
初めて唇にキスしてもらった。
初めて愛していると言ってもらった。
…そう、初めて愛していると…。
瑞葉の白い彫像のように端麗な貌に喜びと恥じらいが綯い交ぜになった表情が浮かぶ。
…幸せだった…。
生まれた時からずっと側にいて、片時も離れずに自分を守り仕えてくれている美しい執事…八雲が自分と同じ気持ちでいてくれた…。
その上、恥ずかしい自分の欲情を鎮めてくれた。
乱れる自分を見つめる深く蒼い瑠璃色の瞳には、同じ熱情が宿っていた。
八雲が自分を愛してくれていて、欲情をも催してくれている…。
消え入りそうな羞恥の中で、瑞葉は幸福を噛み締めていた。
湯の中で精を爆ぜさせ、狂おしく甘い口づけを繰り返した。
身体の弱い瑞葉はそのまま意識を手放し、気づくと寝台の上に横たえられていた。
夜着をきちんと着せられ、傍らには八雲が跪き瑞葉の手を握ってくれていた。
「…愛しています。瑞葉様。貴方は私の命です」
恭しく愛の言葉を囁くと、美しく洗練された騎士のように瑞葉の手を取り優しく口づけた。
…夢のように幸せだ…。
瑞葉はその光景を思い出し、微笑んだ。
先ほど、八雲は業務の合間に瑞葉の様子を見に来てくれた。
「…お変わりありませんか?瑞葉様。
また、お貌を覗きにまいります」
そう囁くと、瑞葉の唇にそっとキスを落とした。
…八雲からは夜会の薫り…上質なシャンパンや紳士達が嗜む葉巻、貴婦人達の高価な香水の香りがふわりと漂った。
…自分の見知らぬ世界の香りだ…。
「…うん。待ってる…」
瑞葉は八雲の手を握りしめ、それが離される瞬間…切なげに瞬いた。
「…愛しています。瑞葉様…」
愛の言葉を繰り返し、優しい微笑みを残しながら八雲は瑞葉の部屋を後にした。