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エメラルドの鎮魂歌
第2章 その薔薇の秘密は誰も知らない
瑞葉は我に返り、気を取り直して鍵盤に手を置いた。
…八雲に褒められるくらい、上手くなりたい…。
そっとピアノを奏で始めたその時…。
開け放していた窓辺のレースのカーテンがふわりとはためいた。
「…美しいピアノの音色に抗えず、外階段を昇ってきてしまったが…まさかこのようなところで地上の天使にお目にかかれるとは…!」
低い美声が響き、瑞葉は心臓が止まるほど驚愕し振り返った。
バルコニーの入り口に、極上の黒の燕尾服にホワイトタイを身に纏った背の高い四十半ばほどの紳士が優雅に佇んでいたのだ。
「…っ…!」
瑞葉は息を呑み、声が出ないほどに驚いた。
甘いマスクの紳士は、朗らかな微笑を浮かべたままゆっくりと近づく。
「驚かせて申し訳ありません。私は怪しいものではありません。
貴方を怖がらせるつもりはないのです。
…ただ…あまりに美しい金色の髪にエメラルドの瞳の天使の貌を、もう少しお側で見せては頂けないでしょうか…」
…他人に貌を見せてはなりません。貴方はこの伯爵家で異端の忌むべき存在なのです。
薫子の強い呪縛の言葉が脳裏に蘇る。
瑞葉は思わず立ち上がり、壁際まで小走りで逃げ出した。
ピアノの椅子が倒れ、激しい音が響き渡る。
男はその彫りの深い瞳を見張り、長い両手を広げた。
「…これは驚いた…!
…確か、篠宮伯爵家の悲劇のご長男はおみ足がご不自由でいらしたはず…。
…まさかお歩きになられたとは…。
私がお聞きしていたのは、誤報であったのでしょうか…?」
瑞葉は両手で口を押さえ、壁際に身を縮める。
近づきつつある男を恐怖の眼差しで見つめながら、震える声で懇願する。
「…こないで…こないでください…。お願い…」
…八雲に褒められるくらい、上手くなりたい…。
そっとピアノを奏で始めたその時…。
開け放していた窓辺のレースのカーテンがふわりとはためいた。
「…美しいピアノの音色に抗えず、外階段を昇ってきてしまったが…まさかこのようなところで地上の天使にお目にかかれるとは…!」
低い美声が響き、瑞葉は心臓が止まるほど驚愕し振り返った。
バルコニーの入り口に、極上の黒の燕尾服にホワイトタイを身に纏った背の高い四十半ばほどの紳士が優雅に佇んでいたのだ。
「…っ…!」
瑞葉は息を呑み、声が出ないほどに驚いた。
甘いマスクの紳士は、朗らかな微笑を浮かべたままゆっくりと近づく。
「驚かせて申し訳ありません。私は怪しいものではありません。
貴方を怖がらせるつもりはないのです。
…ただ…あまりに美しい金色の髪にエメラルドの瞳の天使の貌を、もう少しお側で見せては頂けないでしょうか…」
…他人に貌を見せてはなりません。貴方はこの伯爵家で異端の忌むべき存在なのです。
薫子の強い呪縛の言葉が脳裏に蘇る。
瑞葉は思わず立ち上がり、壁際まで小走りで逃げ出した。
ピアノの椅子が倒れ、激しい音が響き渡る。
男はその彫りの深い瞳を見張り、長い両手を広げた。
「…これは驚いた…!
…確か、篠宮伯爵家の悲劇のご長男はおみ足がご不自由でいらしたはず…。
…まさかお歩きになられたとは…。
私がお聞きしていたのは、誤報であったのでしょうか…?」
瑞葉は両手で口を押さえ、壁際に身を縮める。
近づきつつある男を恐怖の眼差しで見つめながら、震える声で懇願する。
「…こないで…こないでください…。お願い…」