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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
贅を尽くしたデザートのケーキやタルト、プディング、ムースを皆が楽しみその皿が引かれ、そろそろ次の間で珈琲やブランデーを嗜む時間に差し掛かった頃、薫子は美しい所作でワインを飲み干した。

「…今夜、瑞葉をこの席に呼んだのは他でもありません。
貴方の今後についての決定事項を話すためです」

珈琲の準備を下僕に促していた八雲の手の動きが止まった。

薫子はまるで楽しい夜会の計画でも話すかのように打ち明けた。
瑞葉を見つめる瞳には笑みすら浮かんでいた。

「瑞葉を廃嫡にし、和葉を正式な後継者といたします。
近々、お披露目もいたします。
瑞葉はこの屋敷を出て、軽井沢の別荘に移るように」

部屋中の人々から声にならない騒めきが起こった。
さすがの征一郎も息を呑み、思わず薫子に話しかけた。
「お母様、それは余りにも…」
皆まで言わせずに、薫子は言葉を続けた。
それはさながら女王の宣言のようであった。
「瑞葉は身体が弱いのですから、軽井沢の綺麗な空気は最適でしょう。
私は親切で申しているのですよ。
もちろん下僕、メイド、料理人、そして信州の優秀な医師も主治医として付けます。
月々の生活費も潤沢に支払います。
…軽井沢の別荘は私が若い頃にイギリスから建築士を呼び寄せて建てさせた素晴らしいチューダー様式の館です。
それを瑞葉には譲渡します。
感謝して貰いこそすれ、非難される覚えはありません。
…けれど、これで篠宮家の長男と名乗ることは許しません。貴方はもはや赤の他人となるのです。
篠宮家とは一切の縁を切っていただきます」

征一郎は、薫子が出した条件を聞き、諦めたように黙り込んだ。
千賀子が小刻みに震えだした。

瑞葉のエメラルドの瞳には、ただ諦観の色が浮かんでいた。
和葉が千賀子の腕を揺すぶった。
「お母様!何とか言ってください!」
千賀子は瑞葉を見上げ…唇を震わせたがやがて力なく肩を落とし、静かに啜り泣き出した。

業を煮やしたように和葉が立ち上がった。
「お祖母様は横暴すぎます!
なぜ兄様を廃嫡にまでしなくてはならないのですか!
僕はこの家の後継者になりたくもないし、兄様をこの屋敷から追い出すような真似を到底見過ごすことはできません!」
薫子は眉ひとつ動かさずに、楽しげに語り続けた。

「…それと、八雲には瑞葉の世話係を外れて貰います。
貴方は、この屋敷の執事に専念するように」
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