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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
薫子の横顔に浮かぶ寂しげな色は未だかつてない脆さを秘めたものであった。

「…思春期を過ぎ、大人になり…私の外見は次第に日本人に近づきました。私は…嬉しかった。
もう、二度とあの蔑むような視線に晒されることはない。
もう二度とあの屈辱の日々を味わうことはない。
私は…私は勝利したのだと確信しました」
薫子は八雲を振り返り、艶めいた眼差しで見上げ微笑った。
「…美しく成長した私に、男達は挙って求婚してきました。
私の暗黒の時代など知りもせずにね…。
愉快だったわ。
求婚してきた貴公子の中で、一番家柄が良く財力のある篠宮と結婚しました。
征一郎さんが生まれ、まず確認したのは髪色と瞳の色でした。
…黒い髪に黒い瞳…。どれだけ安堵したことでしょう…!
もう私はあの呪縛から解き放たれたのだ…!
もう私を怯えさせるものは何もないのだ…!
そう幸福感に酔いしれました。
…それなのに…!」

突然の春雷が窓を激しく叩いた。
八雲は静かに、鎧戸を閉めた。

「…あの不束な嫁は、あの異端児を生んだ…!
しかも私より遥かに異国人の容姿を持った子どもが目の前に現れたのです…!
葬り去った筈の悪夢が蘇ったのですよ…!
…その恐怖が貴方に分かりますか⁈」
稲妻が激しく閃光し、部屋の中を真昼のように照らし…二人の姿を浮かび上がらせる。

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