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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
八雲は深い瑠璃色の瞳を瞬きもせずに、薫子に当てた。
「…異国人の容姿に生まれ出たこと。
それが瑞葉様の罪でしょうか?
生まれてこの方ずっと、瑞葉様は幽閉され、囚われの身のような生活をなさっています。
けれど、決して恨み言も仰らずご自分の運命を粛々と受け入れておられます。
…大奥様、お願いです。
これ以上、瑞葉様から誇りと尊厳を奪わないでいただきたいのです。
瑞葉様から唯一のお名前を取り上げないでください」
「誇りと尊厳?」
薫子の焦げ茶色の瞳が冷たく眇められた。
皺ひとつないつるりとした白い片頬に冷笑が浮かぶ。
「そんなものは、最初からあの子にはありません。
生まれた時からあの子は異端児…この家の厄介者です」
八雲の深い瑠璃色の瞳に初めて強い怒りの光が宿る。
「…どうしても、瑞葉様を廃嫡になさると、仰せられるのですね?」
「当然です。今までこの屋敷に置いて貰えたのをありがたく思って欲しいくらいです」
八雲は怒りに滾る心を押し殺し、静かに重ねて願い出る。
「致し方ありません。
…それではせめて、私を瑞葉様付きの従者にしてください。
そして瑞葉様に付き添い軽井沢の別荘に赴くことをお許しください」
薫子が冷たく跳ね除ける。
「なりません。貴方は本来の業務に戻るのです。
貴方にはこの屋敷の美しき執事として存在するという責務があります。
それを果たしなさい」
ゆっくりと立ち上がり、滑るように八雲に近づく。
その染みひとつない白い手を八雲の端麗な貌に伸ばす。
別人のように甘い愛撫のような言葉が放たれる。
「…貴方はずっと私の側で、ここに存在するのです。
…私の唯一無二の美しい宝石として…誰もが喉元から手が出るほどに欲しがる美しい生きた瑠璃として…」
暫く微動だにしなかった八雲が、不意に声を立てて笑い出した。
それは可笑しくて堪らないような笑いであり、どこか不気味な底知れぬものを感じさせるような笑いでもあった。
今までそのような八雲を見たことがない薫子は、ぎょっとしたかのように目を見張った。
「な、何が可笑しいのですか⁈」
「…異国人の容姿に生まれ出たこと。
それが瑞葉様の罪でしょうか?
生まれてこの方ずっと、瑞葉様は幽閉され、囚われの身のような生活をなさっています。
けれど、決して恨み言も仰らずご自分の運命を粛々と受け入れておられます。
…大奥様、お願いです。
これ以上、瑞葉様から誇りと尊厳を奪わないでいただきたいのです。
瑞葉様から唯一のお名前を取り上げないでください」
「誇りと尊厳?」
薫子の焦げ茶色の瞳が冷たく眇められた。
皺ひとつないつるりとした白い片頬に冷笑が浮かぶ。
「そんなものは、最初からあの子にはありません。
生まれた時からあの子は異端児…この家の厄介者です」
八雲の深い瑠璃色の瞳に初めて強い怒りの光が宿る。
「…どうしても、瑞葉様を廃嫡になさると、仰せられるのですね?」
「当然です。今までこの屋敷に置いて貰えたのをありがたく思って欲しいくらいです」
八雲は怒りに滾る心を押し殺し、静かに重ねて願い出る。
「致し方ありません。
…それではせめて、私を瑞葉様付きの従者にしてください。
そして瑞葉様に付き添い軽井沢の別荘に赴くことをお許しください」
薫子が冷たく跳ね除ける。
「なりません。貴方は本来の業務に戻るのです。
貴方にはこの屋敷の美しき執事として存在するという責務があります。
それを果たしなさい」
ゆっくりと立ち上がり、滑るように八雲に近づく。
その染みひとつない白い手を八雲の端麗な貌に伸ばす。
別人のように甘い愛撫のような言葉が放たれる。
「…貴方はずっと私の側で、ここに存在するのです。
…私の唯一無二の美しい宝石として…誰もが喉元から手が出るほどに欲しがる美しい生きた瑠璃として…」
暫く微動だにしなかった八雲が、不意に声を立てて笑い出した。
それは可笑しくて堪らないような笑いであり、どこか不気味な底知れぬものを感じさせるような笑いでもあった。
今までそのような八雲を見たことがない薫子は、ぎょっとしたかのように目を見張った。
「な、何が可笑しいのですか⁈」