この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
秘めた花は彼の腕の中で咲く
第15章 大事なものが離れていく
「大丈夫ですか?」
小声で話し掛けると、笑って頷いた。
「さっきまで取り引き先と会食してたんだ。向こうの話が長くて気疲れしただけ」
「お疲れ様です。ビール飲まれます?」
「うん、頼むよ」
ビールを出すと、勢い良く半分飲み干し、つまみのナッツをポリポリと口に放り込む。
「そういえば、今日は何時に終わる?」
普段ならこういう質問には返事はしないが、相手は繁正さん。
お客さんも帰って、繁正さんと女性の2人だけとなり、その女性も離れた席に座っているので、こちらの会話は聞こえていないはず。
出来るだけ声のボリュームを下げ、グラスを拭きながら興味の無いように返事をする。
「今日は12時上がりです。明日店長が用事があるみたいで、早く店じまいするって」
「そうか。だったら外で待ってるから、一緒に帰ろ?」
出来るだけ顔を崩さずに、アイコンタクトで了承した。
繁正さんは2杯ビールを飲むとお店を出た。
繁正さんに続いて、遅れて入ってきた女性も店を出た。
「なあ、さっきの女のお客、何も頼まなかったぞ」
「もうすぐ閉店するのを知って、気を遣って帰ったんじゃないですかね?」