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第15章 タイミング
ファミレスを出て、和香奈の運転で駅裏の閑静な住宅街にアパートを借りて暮らす葵を送ってからいよいよ親父の家へと向った。
「葵ちゃんと仲良くなれて良かった。今度は歩家族と仲良くしなきゃ!」と張り切る和香奈。
「普段通りでいいよ。別に気取る相手でもない」
和香奈にそう言いながらも自分にも言い聞かせた。
そしてーー夏帆さんと初めて会った日を思い出した。
『歩、普段通りでいいからな。気を遣うような人じゃないから』
親父は俺にそう言ったんだ。
俺が塾の夏期講習が終わるのを親父達は待っていた。
暑い夏の日
お母さんになる人との初めての対面
写真で見るよりその人は若く見えた。
黄色いカジュアル系のワンピースを着て、髪を綺麗に束ねて大きめのヘアクリップで留め、ナチュラルメイクで薄っすらとピンクのルージュを引いていた。
そしてニコッと笑い、「初めまして、泉谷夏帆です」と挨拶をした。
挨拶を交したきり緊張で口籠る俺を見て、「暑いね。受験生なのにわざわざ時間作ってくれて有り難うね。今日は牛一頭食べる勢いで頑張ろうね!」なんて言うから笑えた。
「いくら焼き肉が好物でも牛一頭は無理ですよ!」
夏帆さんは自然に普段の俺に戻していってくれた。
花で例えるなら、ありきたりだけど向日葵。
そこに居るのが不自然ではなく、寧ろ落ち着いた癒しを与えてくれるーーそんな人だった。