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わがままな氷上の貴公子
第9章  ファイナル


 50代には見えない、スッキリとした美人。オレより十歳上の兄貴と歩いていて、夫婦に間違えられたこともあった。
 輸入服などを扱っているから、センスもスタイルもいい。頭も切れて、仕事も出来る。
 そんな母親から、仕事を取り上げたいとは思わない。オレが、スケートを辞めさせられるのと同じだ。
 ありがたいことに、オレは母親似。美少年と言われるのも、母親のお蔭。父親も格好いいとは思うが、顔は男らしく、がっしりとした体形。
「お帰りなさい。悠斗さん。食事の支度が出来てますよ」
 和子さんも、オレにとって大切な存在だ。
 気の利かないハウスキーパーだったら、毎日イラついていただろう。
「悠ちゃん、ご飯食べようよ。悠ちゃんの出てるテレビ観ながら、待ってたんだよお」
 潤も相変わらず。
「おいっ!」
 いきなり抱きかかえられ、ダイニングに連れて行かれた。
 まったく……。
 母親が見てるのに……。
「潤くんて面白いわね。よく食べるし。息子にしたいくらいだわ」
 笑いながらの母親が、席に着く。
 それだけはやめてくれ……。
 オレの体がもたない……。
 男同士の上兄弟でこんな関係だなんて、洒落にならないぞ?
 食事が始まると、母親は潤の食べっぷりを楽しんでいる。
「和子さん。さっきのお肉、潤くんに焼いてあげて? 悠斗も食べる?」
 オレはついでかよ……。
 元々、そんなに食べないのを知っているからなのは分かるが。
「オレはいいよ……」
 少しして霜降りのステーキが出されると、潤は目を輝かせている。
「いただきまーす!」
 まあ、お前は大人しく食べてろ……。
「ねえママ、あっ……」
 言ってから口を押さえたが遅かった。
「悠ちゃんて、ママって呼ぶんだあ」
「か、関係ないだろっ!」
 子供の頃からのクセ……。
 一緒にいることが少ないから、呼び方だけは幼い時のままになっている。
 外では“母親”や“母”と言うが、家ではいつもパパとママ。
 オレは育ちがいいせいだっ!
「誰にも、言うなよ……」
「うん。分かったあ」
 そうは答えているが、こいつは鶏頭だからな……。


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