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わがままな氷上の貴公子
第9章  ファイナル


 そのうち潤まで“ママさん”と呼び、母親も喜んでいる。
 溜息をつきながら、温野菜と少しのおかずを食べた。
「ごちそうさま……」
「悠斗はもう食べないの?」
 母親は驚いているが、潤と比べるからだろう。
「疲れたから、風呂に入って休むよ」
「ママ、この後出なくちゃいけないの。どこにいても、悠斗のこと見てるから」
「ん……」
 それだけでいい。
 フィギュアを続けるには、色々と迷惑もかけている。
 初めは幼くて分からなかったが、この年齢になれば理解出来た。
 靴とエッジだけでも、20万は下らない。それも、年に一足だけじゃ済まない。リンク使用料。それにコーチや振付師に音楽作成。大会の衣装だって特注品だ。細かいことを合わせれば、もっと金がかかるのが現実。複数のスポンサーがいても、全てを賄えるわけじゃない。
 年間で数千万単位。そのせいで、実力があっても途中で泣く泣く諦めるヤツもいるのが現実だ。
 母親はそのために働いているわけじゃないが、オレは恵まれている。
 父親だって、遠くからオレを見ているはず。それが励みになる。
 和子さんも、家族の一員だ。
 後はこいつ……。
 馬鹿で鈍感で、大飯ぐらい。デリカシーもなくて、でかいのだけが取り柄で……。
 和子さんが出してくれた、紅茶を飲みながら考える。
 オレは今日、潤に最高の演技を見せたいと思った。大きな声援の中で、潤の声だけははっきりと分かった。
 何だか悔しい……。
 潤の方が、オレを好きなのに。
 先に好きになったのに……。
 複雑な思いのせいで、紅茶の味も分からなかった。
 全部潤のせいだ。
 悩むのも、苦しいのも、悔しいのも。
 いい滑りが、出来たのも……。
 母親と挨拶を交わしてから、オレは部屋へ行った。


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