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わがままな氷上の貴公子
第12章  開宴


 あれは一種の決まりごとでみんなするものだと教えてやると、潤は安心したような溜息をつく。
 もしオレがコーチの鈴鹿と付き合ってたら、お前とヤるわけないだろ?
 五回もっ!
 今度はオレが溜息。
 でもそれにヤキモチをやいていたなら、可愛いとも思ってしまう。
「悠ちゃん。好きだよ……」
「知ってるよ……」
 笑顔でそう返してから、オレはすぐ眠ってしまった。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 練習も始まり、いつもの生活が戻ってくる。
 家に帰れば潤がいるのも、いつも通り。
 上下ジャージで滑っていたが、熱くなってTシャツになった。
「望月……。いや……。彼女がいても、構わないんだぞ。お前は、頑張ってるし……」
 鈴鹿は気まずそうだが、訳が分からない。
「でも、それは、ちょっと……。見えない、場所にしろ……」
「え……?」
 忘れてた……。
 潤が付けたキスマーク……。
 昨日風呂に入った時、自分で見ても驚いたくらい。あの時は夢中で、気付いていなかった。
 練習中は髪を結んでいるから、Tシャツになればハッキリ見えるだろう。
 鈴鹿とは目を合わせず、頷いてからまたジャージを着る。ジッパーを上まで上げ、襟を折り返した。
「悠ちゃんっ!」
 その時、潤の声。
 千絵と一緒に、リンクサイドまで来た。
「鈴鹿コーチ。こんにちはー」
 ニッコリと笑って挨拶する千絵は、オレから見れば猫かぶりだ。
 今日は千絵と相談して、昼休憩の時間を合わせた。行くのは1階の喫茶店だが、潤と塔子との待ち合わせ。
 それなのに……。
「お前。千絵の所に行ったのか?」
「うん。また怒られちゃったあ」
 ヘラヘラしやがって。本当に鶏頭だなっ!
 こっちは、鈴鹿にキスマークを見られたんだぞ?
 相手がお前だとは、思われないだろうけど……。
「もう時間か……。食事、してこい」
「はい……」
 鈴鹿とオレは、何となく気まずいまま。
「悠斗っ、行こうっ」
 鈴鹿に頭を下げてから、三人で一階の喫茶店へ行った。
「塔子っ、お待たせっ」
 塔子の隣に千絵が座ったから、オレは自然と潤の隣。
 それぞれに注文を済ませると、潤が鞄から何か出してきた。
「ほら。悠ちゃんの。買ってきたよ」
 袋から出したのは、オレの写真集。
 またか……。


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