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わがままな氷上の貴公子
第12章  開宴


 それならウチに何冊か送られてきてるのに……。
「いやらしい写真が、あるんだけど……」
 潤は何だか不服そう。
 殆どは、大会の時の写真。数時間スタジオでオフショット風の撮影はしたが、バックは合成処理をすると言われた。
 数カット撮ったのは、サービスのシャワーシーン。前や後ろから、腰の辺りまでの綺麗なセミヌードだ。
 潤が言っているのは、その写真のことだろう。
 お前はもっと全身……。全部見る以上のことをしてるだろっ!
 奪い取った千絵が、表紙を眺めている。
「“氷上の貴公子・望月悠斗”ねぇ……」
「何だよ」
 千絵が言ったのは、編集サイドが付けた写真集のタイトル。
 “氷上の貴公子”なんて、オレにピッタリだろ?
「後はオリンピックだね」
 塔子が言い、つい千絵と目が合った。
 勿論金メダルを目指すが、結果はどうだっていい。自分の最高の滑りが出来れば。
 結果は、後から付いてくるものだから……。
 ママに言われて、和子さんは全員分の航空券とホテルを抑えている。
 家族全員と和子さん。それに潤に塔子。北京とはいえ、大移動だな……。
 潤は“悠ちゃんと一緒に北京”と喜んでいるが、オレは別行動だし選手村だぞ?
 しっかり説明しておかないと、会いに来ようとして警備員に掴まりかねない。
「頑張ろうねー。悠斗っ」
「ああ」
 その先のことは、今は考えたくない。
 千絵や家族と和子さんと塔子がいて、潤がいる。
 それだけでいい。
 もしも今回最悪の結果になっても、四年後、八年後だってチャンスはある。
 潤を見ていると、そんな気持ちになれた。
 全部、潤のお蔭だ……。
 オレから離れようとしたって、もう逃がさないからな。
 お前みたいなヤツ、どこにもいないんだから……。
 発売から数日で写真集に何度も重版がかかり、オレは世間からも“氷上の貴公子”と呼ばれるようになった。




 「わがままな氷上の貴公子」  Fin.



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