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わがままな氷上の貴公子
第1章  変なヤツ



『悠斗(ゆうと)は、大きくなったら何になるの?』
 母親の言葉に、六歳のオレは満面の笑みで答える。
『おうじさまー』
 無邪気な子供の頃の記憶。
 形は少し違うが、それが今現実へと近付いていた……。


 ◆◇◆  ◆◇◆  ◆◇◆


「何だよ……?」
 オレの声が聞こえないのか、その男はただボーっとオレを見つめている。
 見惚れるのは分からなくもない。
 綺麗だと言われるのは、普段から慣れているし。今は結んでいるが、サラサラの肩までの髪や繊細な顔の造りは、万人に人気がある。
 でもこの状況だと、多少身の危険も感じた。
 スポーツクラブのシャワールーム。
 ここはアイスリンク競技専門のクラブで、オレが三歳からやっているのは、フィギュアスケート。
 このクラブではグランプリシリーズへの出場選手はザラで、オレも入賞の常連。そのため、クラブへ入るにもテストのようなものが行われる。
 小学生までは合同練習ばかりだったが、中二の時に推薦で初めて出たグランプリシリーズから進んだフアイナルで初めての四位。それ以来、見かけもあって脚光を浴びるようになった。高一の16歳になった今は、より本格的にフィギュアに挑んでいる。
 短いオフシーズンには、海外へ練習にも出ていた。
 オレを見ているのはかなりでかくてガタイがいいヤツだから、二階の貸し出し用リンクに来ていたんだろう。どこかの大学のアイスホッケー部と、練習が重なる曜日がある。体躯からして、そこに来ていたヤツとしか思えない。
 クラブは八階建てと地下一階。
 地下にはマシントレーニングのジムがあり、一階はフロントと今いるシャワールームと喫茶店。
 二階は貸し出し用リンクだが、それより上はクラブメンバー専用。
 三階は主に、大きな大会に縁のない小中学生。四階は中学生以上がそれぞれに指導を受けている。
 五階から七階は個人練習用だが、七階は大会と同じような客席のあるリンク。八階は事務所。
 オレが普段使うのは五階。
 各階にロッカーと狭いシャワールームはあるが、一番広いのは一階のこの場所。
 一度間が悪くて、アイスホッケーのでかいヤツらと一緒になって鬱陶しかったことがある。


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