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わがままな氷上の貴公子
第1章  変なヤツ


 そいつらは、駅前までの無料送迎バスに送れないようにと急ぐ。オレの家はタクシーで15分くらいだし、ファンに見つかるのも面倒だから、いつも混雑が終わってからこの広いシャワールームを使っていた。
 オレは脱衣所へ戻ろうとしたところ。そこへ入ってきたのが、このバカでかいヤツ。
 そいつは股間にタオルを当てているが、オレはいつも通りタオルは手に持ったまま。
 ゆっくりとオレの全身を見た視線が戻って来て、しっかりと目が合う。
 オレの好みは、細身の長身できつめの顔立ちの美形。
 長身だけが取り柄のお前なんて、問題外なんだよ。問題外っ!
「お前、ゲイ?」
 そいつを睨みつけてから、脱衣所に戻ってバタンとドアを閉めた。
 横を通った時見上げなきゃならなかったから、172cmのオレより、20cmは大きい。
 急いで着替え、シャワールームを出た。持ったのは鞄とプレゼントが入った袋。それは、今日ファンが持って来たいくつかのプレゼント。
 クラブのスタッフが一つの袋へまとめ、望月(もちづき)悠斗とオレの名前が書いてある。
 ファンに会えば笑顔で対応するし、時間が許す限りサインや握手もする。
 プレゼントを持ってくるのは100%女で、ぬいぐるみや手紙など。
 でもオレは、ファンのために滑っているんじゃない。
 自分のためだ。
 自分がもっと上へ行くために、練習を続けているだけ。
 女嫌いってわけじゃない。
 14歳の時に大会で会った男に口説かれたのが、初体験。そいつもオレの見た目だけに惹かれたらしく、お互いに忙しくてすぐ別れた。その後何人か付き合ったのも男だがやはりすぐ別れて以来、最後のヤツから半年以上。
 未来ある“美少年フィギュアスケーター”が、スキャンダルを起こしたくない。それに練習や大会の忙しさもあり、一般人のような生活はしづらいのが現状。
 ある意味、芸能人のようなものだ。大会の度、マスコミにも対応しなければいけない。
 以前電車に乗って、ファンに囲まれたこともある。気分はいいが、面倒だ。
 そんなことを考えながら、クラブを後にした。


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