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わがままな氷上の貴公子
第3章  心配


 それはオレの母親だ。こいつ、分かってんのか?
 多分、空港に頼まれた物を届けに行ったんだろう。たまにあることだ。
「ごちそうさま。悠ちゃん。足、もう平気なの?」
「平気だよ。月曜から、練習に出てるし」
 オレの練習階が変わったから、潤とはクラブで会わない。
 その分家に来てるから、前以上に会ってるけどな……。
「よかったあ」
 本当にホッとしたように言う潤から、視線を逸らしてしまった。
 お前といると、何か調子狂うんだよな……。
 “美少年フィギュアスケーター”と呼ばれるオレは、お前みたいにヘラヘラしてられないんだよっ!
 次もファイナルまで残って、表彰台のトップを目指さないと。オリンピックイヤーだから、みんなそれを狙ってくる。
 オレもやっと、オリンピックに出場出来る年齢になったんだ。これを逃せば、次は四年後。20歳になってしまう。
 コーチは緊張させないためにオリンピックを意識させないが、それを掴めるかはオレ自身の問題。
「そこで、留守番してろよ」
 階段を駆け上がって、自分の部屋へ入った。
 着替えたら、クラブでの個人練習へ向かう。
 ドタドタと聞こえたと思ったら、いきなりドアが開いた。
「悠ちゃん!」
「ノックくらいしろっ!」
 俺は制服のシャツを脱いだ所で、上半身裸。
 デリカシーのないヤツだとは思っていたが、ここまでとは知らなかった。
「悠ちゃん……」
 お前は後ろから抱きしめたつもりだろうが、苦しいんだよっ!
 羽交い絞めにしてんじゃないかっ!
 振り払いたかったが、力じゃ敵わないから諦めた。
「悠ちゃん……」
 耳元で不器用に言われ、首筋にかかる息に反応してしまう。
「な、何だよ! 離れろよっ!」
「だって……。和子さんもいないし……」
「だから何だよ!」
 ひょいと抱き上げられて、ベッドへ寝かされた。
「何すんだよっ!」
 オレはこれから、クラブに行くんだぞ?
「俺、ガマンしてたんだよ……」
「何をだっ!」
 もがいているうちに乳首を弄られて、溜息が漏れてしまった。


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