この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
わがままな氷上の貴公子
第5章 それぞれの闘い

発表会当日。
午前中から始まっているが、最初の方に滑るのは小学生など。
オレは、昼過ぎにクラブへ入った。
発表会ごときに、大したウオーミングアップも必要ない。一応怪我防止のために、前季のプログラムのレベルをダウンして滑るだけ。
「悠斗っ。遅いじゃん。小学生達の演技、可愛かったよー」
控室兼ウオーミングアップに使う六階で、ジャージ姿の千絵に声をかけられる。
発表会は長いから、午前と午後の部に分けて行う。今は午後の部が始まったくらいだろう。
「塔子と潤くんも、観に来てるよー。和子さんもー」
母親は海外での仕事から抜けられなくて、今日は観に来ない。その代わり和子さんが録画した物を送ると言っていた。
二週間近く、潤とも塔子とも会っていない。オレと千絵は殆ど個人練習で、会いに来られない状態。潤がウチへくることもなかった。
圭太と付き合っているという嘘が、よほど効いたんだろう。
和子さんには誤魔化しておいたが、今日会っても問題ない。まさか、男のオレに振られたとは言えないだろう。
軽くジャンプのタイミングなどを確認してから、七階の会場へと向かった。
客席は人で埋め尽くされ、オレの横断幕がいくつも出ている。
通路で柔軟をしながら待っていると、主任コーチから声がかかり会場へ出た。
その途端、黄色い歓声が上がる。
たかが発表会といえ、演技はきちんと熟す。
前の女子の演技が終わり、リンクへ降りた。
一周してから中央で静止すると、歓声が止む。それは、フィギュアでの決まり事。
前季のフリーの曲だったベートーヴェンの“月光”。
それに合わせて滑り始める。
まずは4回転トウループ。前季ではサルコウだったが、難易度はダウンしてある。
振りをしながら勢いをつけ、3ループと3トウループのコンビネーション。
成功する度に、拍手と歓声が起こる。
4回転トウループの後は、コンビネーションスピン。
発表会は、エキシビションのようなもの。
今の全力を出す必要はなく、客を楽しませるのが目的。オレの姿と滑りを見られるだけでも、客は嬉しいはずだ。

