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わがままな氷上の貴公子
第5章  それぞれの闘い


 何度かジャンプをした後、ステップシークエンスにイナバウアー。後半は無難に3トウループで締め、得意のレイバックスピンで演技を終える。
 最後のポーズを決めると、拍手と歓声。
 花束などが投げ込まれる中、「悠ちゃん!!」と、馬鹿でかい潤の声が聞こえた。
 観客から笑いが起こる。
 あれほど、“悠ちゃん”て呼ぶなって言ったのに……。
 午後の部で演技を終えた小学生達が、フラワーガールとして投げ込まれた物を集めていく。
 四方向に優雅なお辞儀をしてから、リンクを後にした。
 点数もないから、キスアンドクライもない。
 入れ替わりにリンクへ降りる千絵を見てから、六階へ戻った。
 すぐに着替えて、シャワーを浴びる。
 投げ込まれた花束やぬいぐるみは袋に詰めてあるが、オレには興味がない。でも和子さんが花を喜んでくれるから、いつも持ち帰る。
 今頃圭太がトリの理由を説明され、演技をしているだろう。
 最後に顔見せはあるが、さっさと帰ることにした。
 日曜の今日休めるのは、あと少ししかない。大会が近付けば、学校も欠席して練習漬けになる。
 たくさんの花束などが入った大きな袋を持ってロビーを横切る途中、凄い力で袋を引っ張られた。
「悠ちゃん! やっぱり凄いねえ。綺麗だったし、上手かったし」
 袋を奪い取った潤が、ニコニコしている。
「何だよ……」
「応援しに来た、だけだから……。エビちゃんにも、誘われたし……」
 以前の潤らしくない話し方。
 オレの様子を、伺ってるのか?
 お前と会わないと、体調はいいよ。無茶なセックスもされなくて済むし。
「返せよ」
 袋に手を伸ばすと、高く上げられてしまった。
 オレが届かないと思われているのもムカつく。
「タクシーでしょ? 俺が運ぶよ」
「お前、何考えてんの?」
「え?」
 あれだけオレに言われて、まだ凝りないのか?
 嘘だが、圭太と付き合っているとまで言ったのに。
「悠ちゃん……」
「悠ちゃんて呼ぶなっ!」
 何だか、以前に戻ったよう。オレが怒っているのに、潤はニコニコしていて。
 こいつといると疲れる。色々な意味で……。
 表には、タクシーが列を作っている。発表会の日は、いつもそう。


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