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わがままな氷上の貴公子
第8章  本当の闘い



「ただいま」
「ただいまあ!」
 玄関ドアを開けると、潤が駆け込んでいく。
「何でお前がただいまなんだよっ」
「いいじゃーん。和子さーん!」
 潤はすぐにリビングへ行ってしまう。付いて行くと、和子さんにお土産を渡している。
 まったく。
 誰の家なんだか分からない……。
「ありがとう、潤くん。悠斗さん。お帰りなさい」
 和子さんまで、オレが後回しか……。
「少し休む。疲れたから」
 そう言って階段を上がったが、勝手に意味深だと思ってしまった。
 普通、東京と熊本を往復するだけで疲れる。それだけの意味だが、和子さんがオレと潤のことを知っているとしたら。
 昨夜のことも、予想しているのかもしれない。
「まさか、な……」
 呟いてから、ベッドへ転がった。
「悠ちゃん!」
 ノックと同時にドアが開いたが、もう諦めている。
 こいつに、ノックの返事を待ってからドアを開ける“習性”がないだけ。ある程度、野生動物として扱った方が楽になれる。
「悠ちゃんっ」
「何だよ。疲れてるんだよ」
「やっぱり、昨夜激しすぎた? 俺、ネットで勉強したんだあ」
 ネットで? 何を!?
「男同士の、ヤり方についてえ」
「馬鹿っ!」
 ケットを引っ張って、頭から被った。
 絶対に、顔が紅くなってる……。
 それを、潤に見られたくない。
 馬鹿というか、クソ真面目というか……。
「潤……」
「ん? 何、悠ちゃん」
 ベッドが沈み、潤が座ったことが分かった。
「暫くは、セックスは、ナシだぞ……」
「何でー。せっかく勉強……」
「オレは大事な時期なんだよ!」
 ケットから出て上体を起こし、潤を睨みつける。
 今はグランプリシリーズの真っ最中だ。
 したいとかしたくないじゃなくて、体力の消耗は出来るだけ避(さ)けたい。
 ロシア大会まで、三週間を切った。体を慣らすために、一週間前には現地入りする。普通なら二,三日前でもいいが、今回は大事な大会。オレの今後を左右しかねない。
 それを潤に説明してやると、渋々納得した様子。
「悠ちゃん……」
 潤が抱きしめてくる。


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