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わがままな氷上の貴公子
第8章  本当の闘い


「馬鹿っ! 今言っただろ?」
 いつものことながら、羽交い絞め状態で動けない。
「これだけなら、いいでしょう?」
「ん……。まあ、な……」
 今まで付き合ったのがフィギュアスケーターばかりだから、調子が狂う。
 大会でしか出会いがなかったせいもあるが、シーズン中はお互いの練習で殆ど会えなかった。
 それでも淋しいと感じたり、生活や練習に影響することはなかったのに……。
「んんっ……」
 キスされるのと同時に、ノックの音。
 すぐに唇を離した潤が、返事をしている。
 返事を聞いて、ドアを開けたのは和子さん。
「食事の支度が、出来ましたよ」
 それだけ言うと、すぐにドアを閉められてしまった。
 潤はまだ、オレを抱き締めたまま。
 和子さんが知っているんじゃないかと、薄々は感じていた。でも、抱き合っている現場を見られるなんて。
 正しくは、潤が羽交い絞めにしていただけだが。
「ご飯だってえ。行こう」
 やっと潤が離れる。
「お前だけ……。あー。オレも行く」
 こいつだけ行かせたら、何を話すか分かったもんじゃない。
 室内用のインターフォンもあるのに、和子さんもわざわざ三階まで呼びに来るなんて。
 絶対にバレてる……。
 セックスについては知らないと思いたいが、和子さんはどう考えているんだろう。
 生まれた時から見てきてるオレが、男と付き合ってるなんて……。
「悠ちゃん。早く行こうよ!」
 やっぱりお前は、オレより食事かっ!
 潤の後からダイニングへ入ると、いい香りに腹が減ってきた。
 この一週間ほど、食欲がなかったのに……。
「いただきまーす!」
 潤はさっさといつもの席に着き、食べ始めている。
 お前。搭乗前の空港でも、しっかり食べたよな?
 椅子に座って溜息をついた。
「いただきます」
 同じメニューだが、また潤とは量が違う。
 向かいで、潤が食事をしている。
 何故か、それだけで食欲が出てきた。
 何年もずっと、一人での食事だったのに……。
 母親が日本へ帰っても客との会食が多くて、家で食事をすることは少ない。ここ三ヶ月は、海外から戻らないまま。
 それでも、淋しいとは思わなかったのに……。


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