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わがままな氷上の貴公子
第1章  変なヤツ


「海老原塔子(えびはらとおこ)です。悠斗さんの活躍は、いつもテレビで観てます」
 塔子はまた頭を下げて、笑顔を見せる。
 “美人”の見本だろうな。
 さっきまで潤といたせいで、余計に綺麗に見える。
 スラっとしていて色白で、背中まである真っ直ぐな髪は、今時の女子高生らしくない黒。でも、それが凄く似合っている。細身だが女性らしいスタイルで、胸は大きい方だろう。
 普通の男なら、一目惚れもあるかもしれないな。
 千絵もブサイクってわけじゃないが、十人並みのおまえが塔子といるのはつらいだろう。本人は分かっていないようだが。
 フィギュア選手としてスタイルがいいのは認めるが、日本人スケーターにお決まりの平ら胸。
 演技に胸は邪魔だろうから、なくてよかったな?
「覚えてる? 塔子も、小三までココで滑ってたんだよ?」
「ふーん……」
 50人以上が在籍しているのに、そんな昔のことを覚えているはずがない。
「ウチで昔のアルバム見てて、悠斗も写ってたから。久し振りに、実物を見に来たんだよねー、塔子っ」
 その言葉に少し顔を紅くして、塔子は千絵の背中を叩いている。
「“美少年フィギュアスケーター・望月悠斗”、だもんねー」
 それは先々月に出たフィギュア雑誌の、オレの特集の見出し。自分の特集に“美少女”と無かったのを、まだ根に持ってやがる。
 書いたのはオレじゃないが、編集部の正しい判断だ。それに、そう呼ばれ出したのは中二の時から。世間の目も正しい。
「塔子が、悠斗の滑ってるトコ見たいんだってー」
 そっか。オレのファンなら早く言えばいいのに。オレは、ファンには特に優しいんだ。
 ベンチに座った塔子に笑顔を見せてから、リンクへ降りる。
 腕を動かしながら勢いをつけ、華麗な3回転(トリプル)アクセルを見せてやった。


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