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わがままな氷上の貴公子
第1章 変なヤツ

その後のグランプリファイナルで二位までに。そして選考会となる全日本でも二位以内に入れば、オリンピックは確実になる。
「悠ちゃん。どうしたの?」
間が抜けた声に、我に返った。
今はリンクサイドのベンチで休憩中。手にはホットの缶紅茶。
オレがコーチに言って、美味しいと思えるメーカーの物を置いてもらっている。
隣には、どうしてか潤。
一昨日の水曜日に缶コーヒーを持って来たから、コーヒーは嫌いだと言ってやった。
オレの好みが紅茶だと当てた褒美に一緒に休憩してやっているが、部活で来ている潤がここにいるのは正味30分ほど。その前に、弁当を食べてから来るそうだ。
こいつなら、かなり食べるんだろうな……。
オレも個人練習の合間に何か口にすることはあるが、この時期は大体がゼリー飲料。食事を摂ると、体が重くなる。
このクラブで滑っているのは三歳から。幼稚舎から大学まである学校に通っているということ。
質問に答えてやる度に、潤は嬉しそうに笑う。
大学生なんだから、16歳のオレより年上。でもそんな雰囲気がなくて、敬語を使ったこともない。
「もう時間だろ……」
壁の時計を見て言うと、「捨てとくね」と言ってオレの空き缶も持って立ち上がる。
「じゃあまたね」
大股で帰って行くのを見て、溜息をついた。
“また”って……。
あいつ、毎回来るつもりか?
オレはいつも四階にいるわけじゃない。五階での個人練習がメインだ。
発表会なんて、オフシーズンにやればいいのに。こんな時期にやるからイライラするんだ。
「悠斗っ」
振り返ると、派手な色のジャージ姿の千絵が立っていた。その後ろには、制服姿の女。
一つ年上だが、千絵も四歳からここのメンバーだから仲はいい方。お互いに子供の頃から入賞の常連で、遠征でもよく一緒になる。
子供の頃呼び捨てにし合っていたから、未だにそのまま。
「今のおっきい人、誰? この前も来てたよねー?」
「友達、だよ……」
そうとしか、言いようがない。
シャワールームでの件を話せば、変に思われるだろう。
そんなオレを、千絵の後ろの女が見つめている。目が合うと、頭を下げられた。

