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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第5章 月の船
「…ねえ、海を見にいかない?」
暁がそう囁いたのは、夜明け前まで何度も愛し合い…抱き合っていた時であった。
…遠くから聞こえる波の音に触発されたのだろうか。
「海を?…良いですよ」
新年を迎えたばかりの夜明け前である。
明日…正確には今日は休業日にした。
…つまり、唯一の貴重な休みだ。
初詣する神社もないので、新年とは言えのんびりと朝寝を楽しみ、ベッドで過ごそうか…と思っていたのだ。
「夜明け前の海…きっと綺麗ですよ」
月城は暁の唇にキスを落とし、笑いかけた。


…店舗兼自宅の前は石段を十段ほど降りると、そこはもう海岸である。
さすがに日の出前の潮風は冷たく、月城は暁を庇うように抱きながら、水平線を見つめた。

…紺碧の海は、まだ夜の帳の色だ。
空と水平線の境が分からぬほどに、濃い闇夜が広がっている。

空には細長い…まるでアラビアンナイトのような黄金の月が浮かんでいた。
それは、鏡のように静かにさざ波を起こす海の水面に映っていた。

一緒に静かに見つめていた暁が月城に頭を預けながら、口を開いた。
「…月が…まるで船みたいだね…」
「船?…ああ…」
…確かに、水面に映る月は、お伽話の黄金の船のようだ。

「…あの船に乗れば、日本に行けるのかな…」
微かに震える小さな声…。
「…暁様…!」
堪らず、その華奢な身体を強く抱きしめる。

…昨夜、夕食後に聴いたラジオは日本の敗戦の予感を色濃く伝えていた。
東京に絶え間なく空襲が襲っていることも…。

暁の貌が強張ったのを見て、月城はすぐ様ラジオを切った。
…それから、二人は激しくお互いを求め合い…愛し合ったのだ…。

「…大丈夫です。縣様も光様も大紋様も…皆様ご無事です。絶対に…!」
力強く励ますと、腕の中の暁が小さく頷いた。

「…だから私たちは生き延びなくてはなりません。
…また、皆様に元気にお目にかかれるように…必ず…!」
「…うん…」
暁が貌を上げた。
月の光に照り映える白く美しい貌…。
黒い瞳は水晶のように煌めく。
「…ありがとう、月城。…愛している…」
「…私もです…暁様…」
…二人には、愛の言葉しか思い浮かばなかった…。


水面に揺蕩う月の船は、二人の胸にそのまま優しく溶け込んでいったのだ。

〜fin〜

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