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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第6章 天使の伝言
「アキラ!アキラ!ねえ、見て!」
店のランチタイムの片付けが終わり、ほっと一息吐いている暁のエプロンを小さな手が引っ張る感触に、振り返る。

「ミシェル。どうしたの?」
隣の家のミシェルが白い頬に浮かんだそばかすと青い眼を輝かせながら、一枚の画用紙を見せた。
「見て!アキラを描いたの!学校の美術の先生に褒められた!」
「ありがとう…嬉しいなあ…」
…そこにはミシェルが精一杯愛情を込めて描いたであろう暁がにこにこと笑っていた。
ミシェルの陽気で素直な性格が良く現れているとても良い絵だった。
心の中がぽかぽかと暖かくなる。
「うん。すごく素敵だ。…隣にいるのは?」
金髪に青い眼の男の子が暁と手を繋いでいる。
「僕だよ、もちろん!僕はアキラをお嫁さんにするんだから!」
暁は思わず小さく微笑んだ。
ミシェルはこの店を構えた時から、暁に夢中らしいのだ。
「ありがとう、ミシェル。…でも、僕には月城がいるからね」
ミシェルが可愛らしい頬を膨らませる。
「…知ってる。ツキシロにも言ったよ。アキラをお嫁さんにしたいから、僕が大きくなったら勝負して!…て」
思わず吹き出してしまう。

「…そしたらツキシロが、アキラは渡さないって」
「…そう…」
ミシェルからの伝言でも胸が高鳴る。
「…でも…」
「?」
ミシェルが生真面目な貌で暁を見つめた。
「…ツキシロが死んだらアキラを頼む…て。ツキシロは年上だから先に死んじゃうだろうから、そうしたらアキラは一人になっちゃうから、僕が守ってやってくれ…て。
だから僕は…あれ?どうしたの?アキラ?」
不思議そうな眼差しのミシェルから貌を背ける。
「…なんでもないよ…」
涙が溢れて止まらない。
…泣いたらミシェルを心配させてしまう。
泣き止まなきゃ…。


「…ミシェル、暁様を泣かせたのか?悪い子だ」
暁の背後から愛おしい男の声が聞こえてきた。
「泣かせてないよ!こないだのツキシロの話をしただけ…」
ミシェルの声が遠ざかる。

「いい子だ、ミシェル。あとでマフィンを届けるから、おうちにお帰り」
ミシェルがぶつぶつ言いながら、帰る気配がする。

…月城の温かな手が、暁を抱く。
「ばか…死ぬときは一緒だって言っているだろう」
「…そうですね…でも…」
「でも、じゃない。僕たちは永遠に一緒なんだから」

答えの代わりは、愛おしいキスだけだ。

〜fin〜


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