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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第9章 天の川にお願い 其の弐
「…天の川…綺麗だね。
…彦星も織姫も…ちゃんと渡れたのかな…」
暁は、ベッドの中から開け放った窓の外を見上げる。
…瑠璃色の宙空には、貴婦人の纏うベールのような天の川が横たわっていた。

月城に幾度も愛された身体はとても気怠くて…自分では指一本も動かせないほどだ…。
けれどそれは、この上なく幸せな気怠さであった。

男の引き締まった美しい小麦色の胸板に頰を摺り寄せる。
…海の香りに混ざり…確かに感じる水仙の薫り…。
変わらぬ月城の匂いだ…。

「…今頃は私たちのように激しく愛し合っていることでしょう…」
男の成熟した色香に満ちた声が鼓膜を擽る。
「…そういうの、冒瀆なんじゃないの?
織姫と彦星は天の神様でしょう?」
軽く睨むと低い美声で笑われた。
「…愛し合う行為は神聖な行為です。
神様も同じです」
…もう何度目か分からぬほどに唇を求められる。
口づけの合間に、掠れた声で尋ねる。
「…ねえ、月城は何て書いたの?七夕の願い事…」
自分の短冊を飾り終えたところで、キスをされ抱き竦められ…そのまま寝室に連れ去られた。
だから月城の短冊を読んでいないのだ。
「…縣様ご一家と梨央様と綾香様と大紋様ご一家のお幸せと…」
「僕も書いたよ。日本の皆んなが幸せでありますように…て。
…それから…?」

月城は不意に押し黙った。
「何?教えてよ」
暁が急かす。
重い口を、月城は開く。
「…お聞きになったら、私をお嫌いになるかもしれません」
「そんな訳ない。教えて…」
月城の端麗な美貌が暁を静かに見下ろす。

「…暁様とご一緒に死ねますように…と書きました」
暁は息を呑み…美しい瞳を見張った。
「…怖がらせてしまいましたか?
けれどこれが私の一番の願いです」
詫びようとする月城の唇が、暁の柔らかな唇に塞がれた。

「…嬉しい…月城…すごく…嬉しい…」
口づけはやがて、涙の味になった…。
「…暁様…」
泣きじゃくる暁を月城が優しく受け止める。
「…約束だよ。月城…。
絶対に置いていかないで…。一日でも…ううん、一分でも嫌だ」
月城のひんやりとした美しい手が、慈しみ深く暁の背を撫でる。
「…約束します。…私たちは、永遠に一緒です」
「…森…」

…愛している…と同時に囁いたのちは、どちらからともなく唇を重ね合い…それはやがて、蕩けるような愛の営みの序章となったのだ…。

〜fin〜

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