この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
「…ただいま戻りました。
…暁様?」
その日、漁から帰った月城は、店にも階上の住居にも暁がいないことに眉を顰めた。
「…どこに行かれたのかな…」
月城が帰る時分に暁がいなかったことは稀である。
いつもなら月城が帰り着く前に扉を開け、駆け寄って来る。
…「お帰り、月城。…今日も無事で良かった…!」
安堵のため息を吐きながら、月城の胸に貌を埋めるのだ。
「…ただいま帰りました…。
…暁様…」
華奢な身体を抱きしめると、鼻先を掠めるひんやりとした夜に咲く白い花の薫り…。
それは以前と、少しも変わらずに…。
店の開店準備も途中で…まるで不意に急用が出来て、慌ただしく出ていったような有様に、月城は胸騒ぎに似た不安な思いに駆られた。
急いで店の外に出て、辺りを見渡す。
冬のからりとした朝の陽の光が、穏やかな南仏の紺碧の海を穏やかに照らしていた。
…温暖な気候のニースとは言え、クリスマス間近の12月にもなると、上着がないと肌寒い。
ざっと見た室内には、暁の濃紺のコートが残されていた。
…遠くには行かれていないはずだ…。
月城は店の前の石段を降り、海岸伝いを歩き始めた。
…暁様?」
その日、漁から帰った月城は、店にも階上の住居にも暁がいないことに眉を顰めた。
「…どこに行かれたのかな…」
月城が帰る時分に暁がいなかったことは稀である。
いつもなら月城が帰り着く前に扉を開け、駆け寄って来る。
…「お帰り、月城。…今日も無事で良かった…!」
安堵のため息を吐きながら、月城の胸に貌を埋めるのだ。
「…ただいま帰りました…。
…暁様…」
華奢な身体を抱きしめると、鼻先を掠めるひんやりとした夜に咲く白い花の薫り…。
それは以前と、少しも変わらずに…。
店の開店準備も途中で…まるで不意に急用が出来て、慌ただしく出ていったような有様に、月城は胸騒ぎに似た不安な思いに駆られた。
急いで店の外に出て、辺りを見渡す。
冬のからりとした朝の陽の光が、穏やかな南仏の紺碧の海を穏やかに照らしていた。
…温暖な気候のニースとは言え、クリスマス間近の12月にもなると、上着がないと肌寒い。
ざっと見た室内には、暁の濃紺のコートが残されていた。
…遠くには行かれていないはずだ…。
月城は店の前の石段を降り、海岸伝いを歩き始めた。