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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
「…ただいま戻りました。
…暁様?」
その日、漁から帰った月城は、店にも階上の住居にも暁がいないことに眉を顰めた。

「…どこに行かれたのかな…」
月城が帰る時分に暁がいなかったことは稀である。
いつもなら月城が帰り着く前に扉を開け、駆け寄って来る。

…「お帰り、月城。…今日も無事で良かった…!」
安堵のため息を吐きながら、月城の胸に貌を埋めるのだ。

「…ただいま帰りました…。
…暁様…」
華奢な身体を抱きしめると、鼻先を掠めるひんやりとした夜に咲く白い花の薫り…。
それは以前と、少しも変わらずに…。

店の開店準備も途中で…まるで不意に急用が出来て、慌ただしく出ていったような有様に、月城は胸騒ぎに似た不安な思いに駆られた。

急いで店の外に出て、辺りを見渡す。
冬のからりとした朝の陽の光が、穏やかな南仏の紺碧の海を穏やかに照らしていた。
…温暖な気候のニースとは言え、クリスマス間近の12月にもなると、上着がないと肌寒い。

ざっと見た室内には、暁の濃紺のコートが残されていた。
…遠くには行かれていないはずだ…。

月城は店の前の石段を降り、海岸伝いを歩き始めた。
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