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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
夕暮れが紺碧の海を茜色に染めていた。
茜色…というよりは、バレンシア・オレンジのような橙色だ。
冷たい潮風に吹かれながら、暁はぼんやりと穏やかな美しい水平線を見つめる。
「…冬の海もいいものだな…」
振り返ると、風間が腕を組みながら暁の背後に佇んでいた。
「…忍さん」
微笑む暁に、昔のように親しげに近づくと肩を抱いた。
「…忍さん?」
見上げる暁に風間は悪戯めいた表情で囁いた。
「百合子も月城さんも隣の家だ。
瑠璃子を迎えに行っている」
「…だから?」
少し睨むふりをすると、可笑しそうに笑いながら暁を尚も抱き寄せた。
「そんな貌をするなよ。
別に不埒なことをするつもりはない」
…だけど…と、ふとしみじみした眼差しになり、暁の白い頰に指を滑らせた。
「…暁を見ていると、とても切ない気持ちになるんだ。
きみは俺の青春だからな」
「…青春?」
「ああ、そうだ。
どきどきしたりわくわくしたり…きらきらしていて眩しくて…戻りたくてももう戻れない青春の日々が、暁なんだよ」
暁はふっと優しく微笑う。
「…さすがロマンチストな風間先輩ですね」
「俺は正直者なんだ。
…暁は俺の青春で、百合子は俺の初恋だ」
「幸せな方ですね。
初恋の美しい方とご結婚できたのですから…」
…相思相愛の夫婦…。
波乱はあったがフランスに渡り、家族も増え愛と絆を深め、夫婦で新しい事業にも成功した。
この上ない人生だ。
「…そう。
俺は幸せ者だよ。
けれど、どきどき思うんだ。
…百合子がいなかったら…俺はきっとずっと君に恋をして、月城さんと君を奪い合っていたのだろうな…と」
暁がくすくす笑いだす。
「ありがとうございます。
こんな…もう四十路の男に過分なお褒めのお言葉をいただいて…」
「本心さ。
…君は相変わらず美しい…。
いや…、あの頃よりも今の方がずっと満ち足りて光り輝いて…眩しいほどに美しいよ…」
風間の両手が暁の小さな白い貌を優しく持ち上げた。
「…幸せ?暁…」
暁は頷いた。
「幸せです。月城とずっと一緒にいられて…彼に愛されて…彼を愛していますから…誰よりも」
風間の琥珀色の瞳が温かく微笑った。
「…君が幸せで良かった。本当にそう思うよ…」
…だから…と、かつての彼のように艶めいた声が囁いた。
「…一度だけ、昔のようにキスをしてくれ」
暁の黒く濡れた美しい瞳が、幽かに妖しく微笑った。
茜色…というよりは、バレンシア・オレンジのような橙色だ。
冷たい潮風に吹かれながら、暁はぼんやりと穏やかな美しい水平線を見つめる。
「…冬の海もいいものだな…」
振り返ると、風間が腕を組みながら暁の背後に佇んでいた。
「…忍さん」
微笑む暁に、昔のように親しげに近づくと肩を抱いた。
「…忍さん?」
見上げる暁に風間は悪戯めいた表情で囁いた。
「百合子も月城さんも隣の家だ。
瑠璃子を迎えに行っている」
「…だから?」
少し睨むふりをすると、可笑しそうに笑いながら暁を尚も抱き寄せた。
「そんな貌をするなよ。
別に不埒なことをするつもりはない」
…だけど…と、ふとしみじみした眼差しになり、暁の白い頰に指を滑らせた。
「…暁を見ていると、とても切ない気持ちになるんだ。
きみは俺の青春だからな」
「…青春?」
「ああ、そうだ。
どきどきしたりわくわくしたり…きらきらしていて眩しくて…戻りたくてももう戻れない青春の日々が、暁なんだよ」
暁はふっと優しく微笑う。
「…さすがロマンチストな風間先輩ですね」
「俺は正直者なんだ。
…暁は俺の青春で、百合子は俺の初恋だ」
「幸せな方ですね。
初恋の美しい方とご結婚できたのですから…」
…相思相愛の夫婦…。
波乱はあったがフランスに渡り、家族も増え愛と絆を深め、夫婦で新しい事業にも成功した。
この上ない人生だ。
「…そう。
俺は幸せ者だよ。
けれど、どきどき思うんだ。
…百合子がいなかったら…俺はきっとずっと君に恋をして、月城さんと君を奪い合っていたのだろうな…と」
暁がくすくす笑いだす。
「ありがとうございます。
こんな…もう四十路の男に過分なお褒めのお言葉をいただいて…」
「本心さ。
…君は相変わらず美しい…。
いや…、あの頃よりも今の方がずっと満ち足りて光り輝いて…眩しいほどに美しいよ…」
風間の両手が暁の小さな白い貌を優しく持ち上げた。
「…幸せ?暁…」
暁は頷いた。
「幸せです。月城とずっと一緒にいられて…彼に愛されて…彼を愛していますから…誰よりも」
風間の琥珀色の瞳が温かく微笑った。
「…君が幸せで良かった。本当にそう思うよ…」
…だから…と、かつての彼のように艶めいた声が囁いた。
「…一度だけ、昔のようにキスをしてくれ」
暁の黒く濡れた美しい瞳が、幽かに妖しく微笑った。