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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
…聖夜が、明けようとしていた。

カーテンを手繰り、月城は結露の雫に塗れた窓を手で拭う。
外には紫色をゆるやかに混ぜた薄墨色の空が、広がっていた。

…暁の星が、未だ東に清らに輝いている。
冬の月は、寄り添うように美しい星を照らしているのだ。

その下に…境界線も曖昧な空の色を映した夜明けの海が静かに広がっていた。

…仄かな外明かりが、ライティングデスクに置かれたままの暁の手紙を優しく照らす。

広い寝台にうつ伏せに寝静まる暁に、月城は眼を移す。

…愛おしいひと…。
近づいて、その艶やかな…微かに白い花の薫りがする黒髪にキスを落とす。


永遠に変わらぬものがこの世にあるとすれば、それは自分の暁への愛だけだ。

「…暁…。
愛している…」

何万回も囁こうと、口にするたびに胸が甘く疼く言葉だ…。
…初恋の切なさに似たものが胸に込み上げる。

長く濃い睫毛が震え、そっと美しい瞳が静かに目覚める。

「…僕もだ…森…」
果てしなく無垢に澄み切った瞳は、月城だけを映していた。

…ほかには誰もいない…。

この世には、二人だけしかいないのだ。

…愛している…。

二人は同時に囁き、その言葉は長く甘い口づけの中へ…永久の彼方へと溶かされてゆくのだった。


「聖なる夜の手紙」〜fin〜

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