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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第6章  美里晶 


 かっとして立ち上がろうとした私を、そっと宥めたのは均だった。こちらに目配せをしてから希の方に向き直ると、均は穏やかな口調で言う。

「岸井さん? ――でしたね。言われたように、今の僕はなにもありません。変わりたいとは思っているけど、どう変わればいいのかもわからなくって。美里さんに釣り合わないことも自覚してます」

「ふーん。それで?」

 頬杖をつき面倒そうに耳を傾ける希には、もう一切取り繕う様子はなかった。

「だけど、初対面の岸井さんが、気にかけることではないと思います。きっと、なにか他に言いたいことがあるんですよね」

「均――?」

 言葉を挟もうとした私を左手で制して、均は淡々とこう続けた。

「お二人の関係は、たぶんですけど、なんとなくわかりました。美里さんがちゃんと、昔のことも話してくれたから」

「!」

 希の顔色が、俄かに変わった。

「ですから、そのことで美里さんを困らせようとしてるなら、無駄だと思います」

 そんな風に話してくれた均のことを、私は見直していた。否、それまでが見誤っていたのだろう。

 繊細さと優しさに魅かれてはいたけど、こんな思慮深い一面も持ち合わせていたのだ。

「ありがとう、均。高校生の時、彼女と私、つき合っていたことがあるの」

 既に察していたであろうことを、私はあえて自分の口から告げる。均の言うように、希はその過去をちらつかせつつ、私たちの関係を揺さぶろうとしていたのだ。

 そうする動機は、まだわからないけれど。

「アハハハ! フフ……参ったなぁ。そっかそっかぁ」

 希は笑い出し、妙に納得したように私たちの顔を、交互に見る。

「まあ、ね。晶が、こういうタイプにした理由は、なんとなくわかった。でもさぁ――」

「?」

「だとしたら、彼は結局、安パイだってことでしょう?」

「安パイ……?」

「そうそう。つまり山本くんは、男慣れしない晶のリハビリに利用されてるって、こぉと」

 希の言葉が、私の触れられたくない部分を的確にえぐる。

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