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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第7章 タモツ
正直に言って、戸惑いはあった。
美里さんと一夜をすごして帰る途中、午前中の空いた電車に揺られながら、ふと自分の想いに気づく。
年上で美人で大学生だから、自分には高嶺の花であるとか。それに釣り合うようにしっかりしなければいけないとか。それは今、言っても仕方がないことで、美里さんの方も気にしないように気づかってくれる。
だからって能天気に浮かれることができないのは、僕の性格のせいだろう。憧れを抱くほどの美女と、つき合っているくせに……。
結局内心では、また「美里さん」と呼んでしまっている。
少し前から――変わろう、変わりたい――と、僕は思っている。でも、その想いはあまりにも漠然としていて、具体的にどうなろうというものではなかった。
あの時は、声と態度を変えることで、自らを奮い立たせ〝彼女〟に愛撫をした。あんなことは無意味にすぎないのだと、今更ながらに気づいてしまう。
仮初の愛撫では〝彼女〟にも自分自身にも、なにも刻むことはなかった。
変身して悪と戦うヒーローのように、まったく違う自分になんかなれるはずもない。そんな子供のような夢をみている限り、僕の中の変身願望を満たすことは不可能だ。
別に、あの岸井さんに厳しいことを言われたからでない。美里さんに対する引け目の正体も、結局は現状に誰よりも僕自身が満足してないから、頭をもたげるものに違いなかった。
「岬ちゃん……大丈夫かな?」
思わずその名を口に出し、はっとして頭を振った。