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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


「抱いてください」

 すぐ近くで僕の顔を仰ぐ、潤んで揺れたその瞳は、今にもとろけそうだった。それが、この胸の激しい高鳴りを呼ぶ。

「でも、いいの?」

 すぐに抱きしめてしまえばいい。だけど、この期に及んで、こんな風に聞いてしまうのが自分らしいといえばそうなのだろう。

「お願いします。あと、もう少しだけ――勇気が必要になりますから」

「……」

 彼女の口にした「あと、もう少し」という言葉が、僕の脳裏に加賀見との最後のやり取りを想起させる。

「ちょっと、待てよ」

 事務所を後にしようとした僕たちを、加賀見が呼び止めていたのだった。

 その後に話したことは――。

「本当に、やるつもり?」

 僕は不安げに、彼女に訊ねる。

「はい」

 だけど、岬ちゃんには既に迷いはないようだ。

「危ない目に合うかもしれない。目的を果たせずに、世間を敵に回すことだって――」

「わかってます。だからこそ、わたしには均くんが必要です。この先も、一緒にいてくれますか?」

 そう言って向けられた眼差しに、僕は真っ直ぐに答えた。

「僕でよければ」

 もう、僕も迷ったりしない。

 硬く抱きしめて、さっきよりも深いキスを交わす。

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