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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
◆ ◆
「ちょっと、待てよ」
岬が加賀見との決着をつけた、あの日。事務所を後にしようとする僕たちを、加賀見は呼び止めていた。
「俺は負け犬だ。わかるだろ? これまでだって、大した人生を送ってなんかいない」
「だから、なんです?」
僕は岬を庇うようにして立ち、加賀見の話に応じた。
「それでも必死に成り上がろうと、いろいろな手段を使ったのは認めよう。狡すっからく汚く、他人を傷つけることだって厭わなかった。まあ、それは説明するまでもないか……」
「そんな話、もう聞く意味なんてありません」
「まあ、待てって。話はこれからだ」
「……?」
僕は不意に、岬と目を合わせていた。
「――といったわけで、俺は所詮小物だ。そんな雑魚を打ちのめしたところで、終わりにできるのかい? ――なあ、あやか」
視線を向けられた岬は、身体を強張らせ僕の腕に身を寄せた。
彼女の過去のすべてを聞かされていた僕にも、加賀見が言おうとしていることが理解できた。そうだ。岬を深く傷つけた人間なら、もう一人いる。