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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
◆ ◆
それから、数日後ことだ。僕と岬が立っているのは、とあるマンションの前。
都内某所に建つその黒壁のマンションは、立派な佇まいではあるけど、決して目立つものではなかった。都心より環状線に出て、混んでいる時間なら車で数十分といったところ。大通りからその身を隠すように、少し奥まった場所に建っていた。
その先の曲がりくねった路地を進めば、閑静な住宅街に行きつくようだ。
「岬」
「!」
地下駐車場の脇のスペースにいた僕たちは、大通りの方から曲がってきた車のヘッドライトに気づくと、その光から身を隠すようにして更に先の路地を折れて、息をひそめた。
「……」
僕たちの視線の先では、真っ赤な高級外車が細い道で窮屈そうに切り返している。数回繰り返し、ようやく地下駐車場に入っていった。
「あの車みたいだけど」
「はい、そうだと思います」
事前に確認していたのは、数年前の車の雑誌だった。今と同じ車種のオーナーとして、目的の人物が取材に応えていた記事を見つけていた。
「どうする?」
僕が聞くと、岬は緊張を滲ませながらも、きっぱりと言う。
「やります。五分待って、電話をかけます」
「……」
黙って頷きながら、思わず岬の手を握っていた。どちらともなく震えはじめると、それを誤魔化すように更に強く握りしめた。
僕たちがここを訪れた理由を説明するには、加賀見と対峙した事務所での場面を遡らなければならないだろう。