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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


「はい。二年前のロケ先のホテルで。朝、わたしが帰る時に……」

『その時、僕はなんて言ってた?』

「なにか、困ったことがあれば、言ってくればいいよって」

『ふーん……』

 その後に続いた沈黙を受け、額に汗が滲んだ。当然ながら、番号は加賀見のメモ帳でしったものである。

『……ま、何年も前のことだしなあ。じゃあ、待ってるから』

 相手から通話を切られ、僕たちは大きく息を吐いた。

「やっぱり、危険すぎない?」

 僕は不安を募らせ、岬に言うけど。

「平気です。もしもの時は、すぐに均くんに連絡をしますので」

「だけど、相手に気づかれて、スマホを取り上げられたりするかもしれない。どの道、長くマンションにいるのは危険だよ。連絡がなくても二十分経ったら、僕も行動に移る――それで、いい?」

 こくりと、岬が頷く。

 まず岬が先に玄関に行き、教えられた番号を打ち込む。ドアが開いた。岬がエントランスに入った後に、調度帰宅した住人の素振りで僕も続いた。

 エレベーターも先に岬が一人で乗る。僕はメールボックスの前で立ち止まりながら、横目で階層表示を確認。ランプが『8F』で止まると、エレベーターの前にいってボタンを押した。

 同じく八階につくと、通路の先に立っている岬と視線を合わせた。

「……」

「……」

 黙って頷き合う。岬は玄関ポーチに立つと、インターホンを押した。

 僕はエレベーターホールの壁に張りつく。ドアから死角になる位置で、岬の様子を窺う。

「どうも」

 ドアが開き、岬が軽く頭を下げる。

 相手の声はよく聞き取れなかったけど、二言三言、言葉をかわしている。

 それから――

「――では、失礼します」

 岬が部屋に入っていった。

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