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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


 僕の家のことも、少しだけ語らせてもらいたい。特に大学受験に失敗して以降、なにかと両親とは折り合いがつかなかったわけだけど、今回の件に関してもそれは同じことが言えた。まあ、それまでのことは、概ね僕の方が悪かったことは認めていたけど……。

 就職をしろと言われていたのだから、家を出て自立すること自体、文句を言わせるつもりはなかった。だけど、両親が本当に気に入らなかったのは、僕がつき合っているのが、話題の弘前あやかだという点。その意図がわかった時点で、僕は両親と決裂するしかなかった。

 とはいえ、これから祖父母のお世話になるわけだし、まったく縁を切るというわけにもいかないだろう。誤解されている点があるなら、それはこの先時間をかけて解いていきたいとは思っている。

 とにかく、これからは岬と二人で歩んでいくのだ。

 ピンポーン!

 インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開き、岬が顔を出した。

「用意はいい?」

「はい」

 岬は言って部屋の電気を消す。それからバックひとつだけを手に、部屋を出てきた。ちゃんとした引っ越しは、後で僕が一人で戻って済ませるつもりだ。

「……」

 ドアを閉じる前に、闇のように口を開けた部屋の中を、岬が見つめていた。

 それは、長く引きこもった部屋。長く苦しんだ部屋。

 それでも感慨深いのか、岬は黙って暫くそうしていた。

「さあ、行こう」

 岬が頷く。そうして、ドアを閉じようとした時だった。

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