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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
◆ ◆
真夜中の午前三時。僕は彼女の住むアパートまで、岬を迎えに来ていた。
先輩たちにも話したように、僕はこれから岬を連れ、祖父母のいる田舎へ移り住むことを決めている。始発が動くまでにはまだ間があるけど、とにかく暗いうちに部屋を出ていたかった。
このアパートに弘前あやかが住んでいるとの情報が流れたのは、浜谷陸也が逮捕されたすぐ後のこと。その当時はマスコミ各社に加え、個人の動画配信者などが一斉にこの近隣に集い、一時は警察が出動して事態を収束させるほどの大騒ぎとなった。
度々部屋を訪ねていた僕についても、数人の配信者の動画内で弘前あやかの恋人として勝手に紹介されてしまう、なんてこともあったり大変だった。だけど面識のない人から声をかけられたりなんてことはなく、取り立てて有名になった感じはなかった。
どこにでもいそうな容姿なのが、幸いしたのかもしれない。
当然ながら心配なのは、岬の方だった。ただでさえ人目を避けてきた彼女が、そんな状況に耐え得るとはとても思えなかったからだ。
だけど意外なことに、岬は割と平然としていたように感じた。世間の注目を集めたとについては、自分の責任だと割り切っていたらしい。
相変わらず部屋には引きこもっていたので、その分、僕の方が苦労することになったわけだけど。直撃取材を狙っていた連中は、そのほとんどが空振りに終わっていた。最近は世間の関心も随分と薄れ、アパートのある近隣もすっかり静寂を取り戻しつつあった。
それでも部屋を出るという決断は、必然だったように思う。岬のためにも、過去のしがらみの残るこの部屋に居続けるのはよくない。
僕たちは話し合いの末、二人で田舎にいくことを決めた。