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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章 山本均
名前のせいにしてる、そんな小さな自分だからいけないのだろうか。結局は両親への反発もあり就職活動をまるで行なわずに、高校を卒業してから暫くは部屋で引きこもることになった。
しかし、そうなるとウチの両親は徹底して厳しい。ダメ次男の引きこもりを容認するはずもないのだ。
結果、容赦のない兵糧攻め(食事、金を一切与えられず)という窮地に立たされてしまうと、文字通り生きるために仕方なくコンビニのバイトを始め、最低限自分の食う分を確保するに至り、そのまま新しい年を迎えることになった。
もし今この店が潰れでもしたら、僕はやっぱり困るのかもしれない。コンビニなんて星の数ほどあるんだから、他店でバイトすれば済む話ではあるのだろう。
だけどコンビニのバイトを始めたのは成り行きであって、このままでいいと思ったことは一度だってなかった。
声優と口にしたのだって、それなりの理由はある。高校時代、文化祭のクラスの出し物で人形劇をやった時のことだ。
僕の役目は、人形の動きに合わせてセリフを当てること。すなわちアニメでこそないけど、一応は声優と同様のことを経験したのだ。手作りの人形や舞台はちゃちなものだったし、ストーリーも至極シンプルだったけど、割と重要な役を演じた。
普段にも覚えがないくらい声を張り上げ、台本に書かれたセリフを感情を込めて観客に届けていった。その時に、自分でも意外なくらい胸が高鳴った感覚が今でも忘れられない。
自分とは違う誰かになりたい。そして、そうなれることの快感。変身願望のようなものが自分に内在していることを、それ以来、強く自覚するようになっていた。