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不器用な夫
第8章 当主
曽我が門の前で呼び鈴を鳴らすと木戸が開きエプロンを付けた中年女性が出て来る。
「いらっしゃいませ…、こちらへどうぞ。」
その女性が僕と曽我を玄関ではなく、庭の方へと案内を促す。
広い日本庭園…。
素晴らしいと思える、よく手入れされたその庭を抜けると主屋が見えて来る。
主屋の縁側には着物を来た若い男性が座ってる。
「清太郎さんだ…。」
曽我が小さく呟いた。
僕は驚きが隠せない。
間違いなく男性だった。
しかし、儚げで美しく春の陽射しに負けないほどの暖かな微笑みを僕に向ける殿方が藤原家当主だと言われても違和感ばかりを感じる。
この人が最古の名家の…。
現イかせ屋のトップ…。
僕が持つイメージとは全く違う清太郎さんが
「いらっしゃい。君が国松君だね?」
と柔らかな笑顔で聞いて来る。
慌てて頭を下げる。
「すみません、これ…、つまらないものですが。」
東に持たされたお土産を震えた手で差し出す。
僕に失礼があれば…。
緊張に手が震える。
その手をゆっくりと丁寧に包み込む女性のような細く白い手…。
「お気遣いをありがとうございます。国松家にこんな気遣いをさせてしまうとは藤原家の恥になります。」
僕の手を握り、頭を上げるようにと清太郎さんが柔らかく促す。
「そんな…。」
「いえ、未熟者を迎えにやらせた僕のミスだ。昌…、ちゃんと国松君には謝罪をしたのだろうね。」
僕には柔らかな微笑みしか見せない清太郎さんは曽我には厳しい視線を向ける。
「致しました。」
曽我は膨れっ面を見せるけど、清太郎さんは僕しか見ずに縁側へと誘う。
藤原家の気遣いは徹底したものだと感じる。
出されたお茶は口元に近付けるだけで素晴らしい香りが立ち、味わい深くほんの僅かでも口いっぱいにお茶を含んだ気分になれるほどの一級品だ。