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不器用な夫
第10章 キス



母のように不幸になるだけの女性を探す事になるとか考えたくなかった。


「行きなさい。」


清太郎さんが僕の背中を押す。

庭の向こうに曽我が待ってる。

来た時に見た素晴らしい日本庭園を抜けて藤原家を後にする。

僕は国松家の次期当主としての生き方を覚悟してスッキリと穏やかな気持ちで東京に向かう。


「ねぇ、曽我君って…、本命、恋人は居ないの?」


帰りの新幹線ではそんな話をする。


「居ない…。」


赤い顔で曽我が僕から目を逸らす。

曽我はモテる。

毎日のように女子高生が曽我目当てに学校へ押し掛けて来てる。


「今まで誰とも付き合わなかったの?」


イかせ屋の練習に女性と付き合う事は考えないのかと興味津々で曽我に聞く。


「付き合ったりはしねぇよ。練習の為に付き合うとか女性に対する侮辱じゃん。」

「じゃあ、どうやって練習するの?」

「だから…、練習とかしない。」

「じゃあ、夕べのキスは?」


そこまで言うと曽我の表情が不安に変わる。


「もしかして…、下手…、だったか?」

「もしかして…、初めて…、だったの?」


曽我は僕から顔を背け僕はお腹を抱えて笑ってやる。


「笑うなよ。」

「だって…、僕だよ!僕っ!初めてが僕っ!」

「いいんだよ!お前は俺の親友!俺はそれで満足なんだ。」


曽我が僕の笑いを止めようと羽交い締めをして僕の頭を押さえ付ける。

曽我の言う通りだ。

僕は曽我の初めての男になった。

それは曽我の思い出に一生残る存在になったという意味であり、僕は曽我の親友として心が満たされて満足感に包まれる。

いつか…。

曽我以上に僕の心を満たしてくれる人に出逢えるのだろうか?

この先の僕は曽我という存在だけを心に留める事で穏やかで順調な人生を送る事になった。


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