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不器用な夫
第11章 愛撫



要さん…。



先生…?



「先生ってばぁ!」


バァンッとテーブルが叩かれた音で僕の瞳孔が開き、その音の方へと顔を上げる。


「なんべん呼んだら返事をしてくれるの?それにハコはいつまで古典の勉強すればいいの!?」


発狂する妻…。

呆然とする夫…。


「へ?」

「へ?じゃないよっ!」


ハコが僕にキレてる事だけは理解をする。

どうやら僕は過去にどっぷりと浸かってたらしい。


「まだハコに古典をやらせたいのっ!?」


可愛らしい顔を歪めて鬼の形相で妻が睨む。

何故か窓の外が紅く染まってる。

僕の言い付けを守り、3時間以上もハコは黙って古典の勉強をしてたらしい。


「ああ、すまない。勉強はもういいよ。それよりもハコは夕食は何がいい?」


不器用な男は不機嫌な妻の気持ちを推し量るとか器用な事が出来ない。


「何…、考えてたの?」


疑うような恨むような目付きでハコがまだ睨んでる。


「何って…?」


曽我や清太郎さんの事を思い出すだけで僕の頬が熱くなる。

未熟で若かった自分が恥ずかしくなる。


バァンッ!


再びテーブルが鳴る。

心臓が止まるかと思った。


「もう…、いいよ!ご飯なんか要らない!」


そう叫んでハコがテーブルから離れて寝室に向かって走り出す。


「ハコっ!?」


僕の呼び声にバァンッと派手に寝室の扉を閉める音だけが返って来る。

何がいけなかった?

ただ狼狽える。

ハコを怒らせた。

だから僕は意味がわからなくてもハコに謝罪する必要があるとは思う。

ハコを追うようにして寝室に入るとベッドで布団に潜り込むハコが居る。


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