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不器用な夫
第14章 捻挫
「おはようございます…。」
僕に向かって頭を下げる公平が待つ車に乗り込んだ。
ハコが今朝のコーヒーは失敗しなかった。
ただし、ノーブラで着替えをするハコに僕がブラジャーを着けてやる。
「ほら、遅刻をするよ。」
のんびり屋のハコを急かして家を出れば茅野家からの迎えの車があっという間にハコを攫う。
学校生活の平日ではハコとはゆっくりと話も出来ないと実感する。
「公平っ!今夜も狐うどんはお断りだからな。」
「御意…。」
「ハコは照り焼きが好きなんだ。」
「御意…。」
「真面目に聞いてるのか?」
「聞いてますよ。ですが自分が奥方様とばかり居るのは坊っちゃまが不愉快になりますよね?」
「僕の妻だからな。」
「心得ております。だから奥方様が手っ取り早く覚えられる料理をお教えしたまでです。」
公平がクスクスと笑う。
今も、公平は僕の良き理解者だ。
フェロモンにさえ溺れなければ…。
訓練を受けた曽我ですら抵抗が難しいのだから、その事で公平を責める事は出来ない。
「ハコが…、大切なんだ。」
「御意…。」
「公平…。」
「坊っちゃまの幸せが何よりです。」
それ以上を話す事はないと公平の目が物語る。
もしもハコと上手くいかなかった時は、きっと公平が僕を慰める。
その時の僕は父のように男の身体に溺れるだけになるのだろうか?
いや…。
余計な事は考えるな。
今はハコの事だけを考えろ。
ハコの幸せだけを…。
「行って来る。」
車を降りて学校に向かう。
ここからの僕は教師だ。
ハコは学生であり僕の妻ではなくなる。
いつものように職員室に向かえば、森下先生が寄って来る。
「あら?」
「何か?」
「いえ…。」
僕の全身を舐めるように見た森下先生が自分の席に座る。