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不器用な夫
第14章 捻挫
寝癖もネクタイの歪みもハコが直した。
「妻として、みっともない先生にだけは致しませんから。」
そう言って僕の事に必死になるハコは自分のブラジャーを着け忘れる。
天然少女だがハコのお陰で森下先生が近寄らなくなる事は有難い。
職員室を出て自分の教員室に行く。
「おはようございます…。」
白いセーラー服を着た少女。
「おはよう、三浦君…。」
チョークを取りに来た果歩の為に戸棚の鍵を開ける。
「ねぇ…、先生…。」
教員用デスクに着く僕に果歩が話し掛ける。
果歩と余計な話をすればハコが嫌な思いをするのは先週で学習済みだ。
「今日の欠席者は?」
「ありません…、遅刻も…。」
ハコはちゃんと僕の言い付けを守ってる。
「なら授業が始まるから、さっさとチョークを教室に持って行きなさい。」
教師としてしか僕は学生とは接触をしない。
「失礼致します。」
果歩が頭を下げて教員室から出て行く。
1時間目は自分が担任するクラスでの授業だ。
果歩から5分遅れで教室に向かう。
丁度、授業開始の鐘が鳴る。
ハコがちゃんと教室に居る。
「教科書を開いて、今日は試験に出る部分の御復習いをする。」
ハコは既にこの部分を復習済みだ。
「この『おかし』…、髪を梳くのを嫌がってるからおかしい訳じゃない。髪を梳いてないのに綺麗な御髪ですねと褒め言葉として使われてる。他の『おかし』の例題がわかる人は居るか?」
高校生ともなれば手を上げて発言してくれる子なんか皆無だ。
こちらから指定しなければならないかと思った瞬間だった。
ハコがゆっくりと手を上げる。
クラス中の学生の視線がハコに注がれる。
「茅野君…。」
「枕草子などでは情景を表すのに『おかし』が使われているので風情や趣があると訳されます。」
「良く出来たな。」
満足な回答だった。