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不器用な夫
第15章 相談
「これ…、美味しいね。」
間違いなく今の僕は作り笑顔をハコに向けている。
「無理はしなくて結構です。」
ハコは俯いて食事をする。
今夜の夕食は鰤の照り焼き…。
別に変な味ではない。
ただ…。
「公平さんから教わりました。今の季節の鰤はあまり美味しくはないと…。」
ハコが事実を僕に突き付ける。
冬なら油が乗り、旨かったのだろう。
少しパサつきを感じる鰤を僕は黙って食すしか出来なくなる。
「いつも、こんなに遅くなるのですか?」
ハコが聞いて来る。
不機嫌な妻の質問には誠意を持って答えるべきだと本能が囁く。
「いつもではないよ。今日は放課後にちょっとしたトラブルが起きてね。」
「トラブル?」
「三浦君が捻挫をしたんだ。軽い怪我だけど担任として三浦君を家まで送り届ける責任があってね。」
「果歩が?」
「ほら、ハコも知ってるだろうけど僕の運転じゃとんでもなく時間がかっちゃって保健医の新巻先生にも凄く心配を掛けたんだ。」
乾いた笑いしか出て来ない。
ハコが唇を震わせる。
「ごちそうさま…。」
半分も食べずにハコが席を立つ。
「ハコ…?」
「さっさと食べて下さい。片付けたらすぐに寝ますから…。」
冷たいだけのハコに狼狽える。
「こんなに遅くなるなら…、もうお食事のご用意は致しませんから…。」
ハコの言葉に悲しくなる。
「ハコ…、明日は早く帰るからさ。」
「無理は結構です。」
頑ななハコにどうしてよいのかがわからない。
「ごちそうさま…。」
食事が無意味なものに思えた。
寝室でもハコは僕に背を向ける。
ハコに触れないままの夜はとても寒いのだと初めて知った夜になった。