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不器用な夫
第2章 執事



僕を見下ろせる位置まで来て僕に厳しい視線を目一杯に注ぎ込む。

夕べの状況をハコが通学中の車の中で白鳥に報告済みならしい。

その報告は茅野家に伝わり、我国松家にも伝わる。

両家はそうやって夫婦円満な関係が保たれるまでピリピリとした空気を漂わせる事になる。

白鳥は自分の主が受けた国松家からの仕打ちがよほどにお気に召さないようだ。

執事とは異常なほどに自分の主を絶対だとする人間が多いと僕は思う。

但し…。


「ここは学校ですよ。茅野家のプライベートなご相談でしたら放課後にでもお聞きします。」


と僕は教師としての立場をぶつけてやる。

ハコとは夫婦である。

だが学校内では教師と学生の立場を崩さない約束がこの婚姻に含まれる以上は僕はそれを利用する。


「失礼を致しました。」


目を伏せた白鳥がイギリス風に自分の脇腹に手を添え身体をくの字に曲げながら深々と僕に頭を下げて臣下の儀礼を見せる。

幾ら、白鳥にとってハコが絶対的主だとしても白鳥の気持ちがハコに届く事はない。

そこに存在するのは常に身分という壁であり、ハコが僕の嫁として国松家に嫁いだ今は白鳥の立場は僕に逆らう事が許されない立場にある。

執事とは…。

便利であり厄介なものだと思う。

この先の僕とハコの結婚生活の中で執事の立場をどうすべきかをハコと話し合う必要がある。

そこに絶対服従の執事は邪魔なだけだと僕は思う。

執拗なほどに僕を恨みがましく見る白鳥に僕はただ苛立ちしか感じない。

ハコと白鳥の間に何があったかは知らないがそれは所詮過去だと自分に言い聞かせる。

そうしなければ僕は自分を見失う。

臆病者の僕は過去から逃げ出す事でしか前に進めない人間だった。


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