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不器用な夫
第27章 家出



食欲のなかったハコが落ち着いて食事が出来た事だけでも清太郎さんには感謝する。


「お腹いっぱい。」


ハコが幸せそうに清太郎さんへ笑顔を向けるほど回復した事を嬉しいと思う。


「それは良かった。」


清太郎さんも暖かい笑顔でハコを見る。

だが笑顔はそこまでの事だった。


「五代が国松に押し掛けてるらしいね。」


清太郎さんの話にハコが顔を強ばらせる。

もはや五代はハコの天敵にしかなってない。


「何故、今更に五代が?」


僕よりも名家の動向に詳しい清太郎さんに聞く。


「五代と清宮の対立は知ってるよね?」

「どちらも政治家ですからね。」

「清宮のご令嬢については?」

「うちの学生ですよ。」


今は3年に居る。

この夏休みが終われば内部受験での短大の合格が確定する学生だ。

父は確か清宮からも僕の愛人の申し込みがあったと匂わせてた。


「清宮では三条のご子息とのご婚約の話が進んでるらしい。」


清太郎さんの言葉に納得する。

三条はいわゆる不動産王の家系…。

茅野家とも当然の繋がりがあり、経済界では主の様な存在になる。

その三条との婚姻が決まれば、国松の愛人という不確かな状況よりも確実に政治の世界でトップの座を狙えるようになる。

清宮が1歩リードという戦局で焦った五代がうちに押し掛けて来た。


「茅野からも問い合わせが来てるよ。」


清太郎さんが苦笑いをする。


「茅野家から?」


嫌な予感しかしない。


「国松がご令嬢の立場を蔑ろにしてないかとね。」


僕を窘めるような口調で清太郎さんが見る。

ついに僕は妻を守れない駄目な夫なのだと妻の実家からも判断されたのだった。


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