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不器用な夫
第27章 家出
僕とハコがその個室に入り落ち着いた頃には京都らしい懐石が運ばれて来る。
「いきなりご飯?」
ハコが目を丸くする。
「そう、いわゆる会席料理と言われるコースはご飯や汁物を後にする。だけどこれは懐石だからご飯と汁物から始まる。」
そのくらいの知識は僕でも持ち合わせてる。
そもそもお茶の席で客をもてなす為に出された料理が懐石の始まりだ。
その中でも京都らしい食材を厳選して始まったのが京懐石であり、味付けも素材の風味を活かすやり方に最も秀でた料理方法で調理されている。
そんな古き良き日本の文化に惹かれて僕は古典の教師になった。
「要さんも慣れてるじゃん。」
ハコが口を尖らせる。
「僕のは知識…、国松の人間は引き篭もり気味のくせに知識だけは持ってるのが特徴です。」
「なのにハコには外の世界に出ろと言うの?」
「出られるのは今だけだと言ってるんだよ。」
「今だけ?」
英語の発音が悪いと言われ続けた森下先生ですら海外留学をグズグズと悩んだ。
若い時なら勢いだけで何処にでも飛び出せる。
その時間を妊娠して母親にする事で奪ってしまう可能性に僕は抵抗を感じる。
そんな話をハコと改めてする。
「それでもハコが要さんの妻として赤ちゃんが欲しいと望むのは間違いなの?」
ハコの意思は変わらないとハコが言う。
そこで僕は迷いが出る。
ハコがそこまで言うならば…。
ハコを妊娠させて国松の妻の立場を確実なものにしてやるべきか?
迷う間に清太郎さんがやって来る。
「食事はお口に合いましたか?」
着物に前掛けをする清太郎さんが本当に料理人なんだと見直した。