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不器用な夫
第30章 おかえり



夏休みが終わり、絵里美が僕の学校に赴任する。


「要…。」


職員室で話し掛けて来る絵里美を僕は無視して自分の教員室に引き篭る。


「おはようございます…。」


見慣れたセーラー服の少女が僕を待っている。

2学期も果歩が僕のクラスの委員長だ。


「おはよう…。」


僕は機械的に戸棚の鍵を開けてやる。


「先生の奥様がハコだったとか…、笑えない。」


果歩がハコのように口を尖らせて僕を見る。

セーラー服のせいか果歩が時々、ハコと重なる。

今は学校中で僕の妻がハコだった事実が噂になっている。

そんな噂はすぐに収まる。

学生達は常に新しい噂を探す事に夢中になる。


「そうか?」


とぼけて答える。


「ハコに勝てる子なんか居ないもの。」


学校一の天然娘には誰も勝てる学生が居ないと果歩が笑う。

そのハコはもうこの学校に居ない。


「ハコが居ないのは寂しいわ。先生は?」

「寂しいよ。」

「なら、先生…。」


果歩が何かを言いかけて言葉を飲み込む。

果歩がハコの代わりに…。

そんな事はまた自分を傷付けるだけだと優秀な果歩は理解をしてる。


「授業が始まるぞ。」


僕に同情の顔をする果歩を教員室から追い出す。

同情は要らない。

あの北川先生にも、かなりのドヤ顔をされてうんざりしてた。


「茅野家のご令嬢と結婚をした挙げ句に愛人の存在がバレて別居中とは国松先生もなかなか隅に置けない人だね。」


ムッツリスケベでいい歳をした男が女子高生に熱を上げた挙げ句に家柄を盾にして結婚を迫り、その妻に捨てられた現在は別居中である。

それが世間の噂だ。

ハコが僕の妻であるとバレた段階でくだらない噂は独り歩きする。


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